厚生労働省から、医療事故調法案の大綱が発表された。秋の臨時国会(あるのか?)に向けての動きらしいが、下敷きになっているのは各方面から猛反発を食らっている(厚労省は賛成多数と言っているが)第三次試案だ。馬鹿にするのもほどほどにしておかないと、医者も黙っていない時代だと、まだわからないようだな。
日経メディカルオンラインに、いつもいい記事を書く野村和博記者がまとめてくれている。
「厚生労働省、お取りつぶしへ?」にhot cardiologistさまが抜粋でコメントを入れて下さっているが、問題の要点がわかりやすいように、ここにあえて全文転載をする。著作権などの問題があれば対応するのでご連絡いただきたい。
2008. 6. 17
大臣無視し官僚が既成事実化を目論んだ?
意味不明な事故調法案大綱の発表
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/report/200806/506885.html
野村和博=日経ヘルスケア
厚生労働省は6月13日、医療安全調査委員会の設置のための法案のたたき台となる「医療安全調査委員会設置法案大綱案」を発表した。法案の詳細は既報の通り(2008.6.13 厚労省が「事故調」設置法案の大綱案)、基本的には4月に厚労省より発表された第三次試案の内容を踏襲したものだ。
新聞などの報道では「今秋の臨時国会での成立を目指す」などと報じられており、このまま法案化が進められるかのようにも受け止められる。しかし、これはあくまでも第三次試案のまま法案を書くとこうなる、といったことを示したに過ぎず、今後の修正も十分あり得る。
実際、舛添厚生労働大臣は今回の「大綱案」について、「第三次試案を法案化するとこうなるという形で示したもので、これで今後改善すべき点が明らかになる」と述べている。そして、「今後、第四次試案が作成されるときにも、同様に法案化した形を示して、広く意見を聞く予定である」という通り、今後四次試案を作るべく、引き続き意見を募集し、与野党の協議を深めていく方針だ。
よく分からない大綱発表の意義
さて、この発表には首を傾げたくなる点がある。なぜ、このタイミングで、かつ「大綱案」という法律の原案のような形にしてわざわざ発表したのかということだ。舛添大臣の上記コメント通り、政府が第四次試案を考えているのであれば、第三次試案の内容で大綱を作り、わざわざ世に出す意図が分かりにくい。
まず、大臣コメントにあるように、政府が第四次試案作成に向けて議論を深めたいのであれば、パブリックコメントから導き出された論点を再整理し、提示して議論の土台を整えることが先決だ。しかし、それを通り越して、「第三次試案に基づき法案化したイメージ」を発表した。当事者たる医療者側も患者側も、与党も野党も、事故調の“中身そのもの”について議論を続けているのであり、法律の構成や法文の表現についての議論をしているわけではない。「法案化した形を示せば改善すべき点が明らかになる」という大臣のコメントは苦しい。
そもそも、大臣は第三次試案による法案化に慎重な姿勢を取っていた。5月23日の閣議後記者会見で大臣は、「与野党みんなが一致できる法案であったほうがいい」と語っており、事実上、現状のままでの法案化はしない構えを見せていた。事実上というのは、野党である民主党が、医療事故調査制度作業チーム(事務局長:足立信也氏)作成の民主党案を発表する直前段階にあり、与野党の議論がこれからスタートする段階であることを大臣は認識していたからにほかならない。
実際、6月11日に公表された民主党案では、届け出の基準や事故調の介入の仕方などについて第三次試案と明らかな違いがある。これから与野党や医療界などを巻き込んだ議論がさらに続くことが明白なこの段階で、法案化しておくことに何の意味があるのだろうか。ましてや、第四次試案が出たときに新しく大綱を作るのであれば、第三次試案を基に大綱を作成した労力は無駄になりかねない。
厚労省医政局は大臣を無視?
このように、今回の厚労省の記者会見と大臣のコメントにどこかおかしいと感じられる点がある背景には、厚労省医政局が大臣の意向をないがしろにして、先走ろうとした構図が透けて見える。
大臣の意向とは正反対に、医政局側には、今回の大綱を発表することにより法案の大枠を既成事実化し、後は細部を詰めていくという考えがあったと聞く。そこへ大臣が「今回の大綱は決定事項ではない、第四次試案までやる」というメッセージを打ち出すために、急遽冒頭のようなコメントを発表した、というのが、今回の発表の裏にあった事情のようだ。
もともと、大臣と厚労省医政局との関係が希薄であることは霞ヶ関関係者から漏れ聞こえてくる。一部では既に報道されており、例えば、RISFAX6月5日号の記事『舛添要一厚労相の"孤立"深まる 相次ぐ内部批判に「敵か味方かわからない」惑う官僚』では、厚労省医政局総務課長の二川一男氏が大臣を批判するような以下のコメントが載っている。
ビジョン会議でも、医政局幹部の苦々しい顔が並んだ。医政局の骨子案とは別に、舛添氏は「規制強化はダメ」「中央集権はダメ」「改革努力を怠ってはダメ」といった"ダメ三原則"を打ち出した。二川一男総務課長は「見ての通り。我々も初めて聞く話ばかり。まとめるのはなかなか大変な作業」とこぼす程だ。
実際、大臣に近い関係者によると、今回の大綱発表も大臣は直前まで聞かされなかったという。医政局と大臣の方向性が互いにそっぽを向いている証左ではないだろうか。
省のメンツか人事考課の材料か
一方で、このタイミングでの大綱発表の背景には、厚労省が成果発表に焦ったという事情もあるようだ。ある国会関係者はこう語る。「厚労省は今国会に事故調法案を提出できなかったことに官僚独特の負い目を感じ、メンツを立てるために法案だけでも形にしようという機運が高まったのではないか」。
加えて、こんな見方もある。この関係者によれば、省内の人事異動の内示が出るのは、6月から7月にかけてだという。このタイミングで発表した裏には、省内でこの法案の発表を強行した一部の人間にとって、これを「成果」として引っ提げ、人事考課の材料にしてもらおうという腹積もりがあったのでは、というわけだ。
こうしたうがった見方をしてしまいたくなるほど、今回の厚労省の発表はヘンだ。省と大臣の間のゴタゴタにせよ、省内のメンツにせよ、当事者である医療者や患者を振り回すようなことを続けているようでは、双方からの信頼はガタ落ちしてしまう。
特に医療者側のことでいえば、第三次試案に対して、本サイトのアンケートで会員医師の大半が反対している(2008. 5. 30【医師限定】あなたは第三次試案に賛成?反対?)。パブリックコメントでも、個人の医師から多くの反対意見が出ていた。医療を支えているのは、学会でもなく医師会でもない。これだけ現場の医師の反対がある中で、第三次試案に基づく大綱を発表し、法案の大枠を既成事実化しようとしたのであれば、大ブーイングが巻き起こってもおかしくない。それとも、こうした反対意見にはもはや聞く耳を持たないという意思表示なのか。
本大綱について厚労省は、ホームページのトップページでパブリックコメントを募集するサイトへのリンクを貼っている。そのバナーにある「ご意見を募集しています」との言葉に虚しさを感じるのは、記者だけだろうか。
(記事ここまで)
このブログでも、医療事故調の試案について、また厚生労働省の進め方について、たびたび意見を書いてきた。基本的には「現状の試案(第三次試案)では、施行するには未熟であり、十分詰めないうちに法律になれば医療に大きな傷害を与える」という意見である。4月下旬以降でも、次のような意見を書いてきた。
4月23日には、地方紙でおこなわれている「世論操作」に苦言を呈した。
5月2日には、第三次試案の問題点を書いた3つの意見
(1)(2)(3)を紹介し、厚労省のお先棒を担いで第三次試案を持ち上げ続けている日本医師会の
木下理事に苦言を呈した。
6月7日には「厚労省が第三次試案を元に法案を提出するようなら、医師は厚労省と対立どころか対決しないといけないかもしれない」と書いた。
ここのような場末のブログで苦言を呈していても、大した影響力はないかもしれない。しかし最近いろいろな方と情報をやり取りするようになって、このブログを思いのほか多くの人が読んでくれていることもわかった。それがわかると、ますます第三次試案のまま暴走しようとしている厚生労働省に苦言をいわないわけにはいかない。
この記事の冒頭を読んでいただくとわかるように、私はこの厚生労働省のやり方に怒っている。日本の医療を存続させるには現場の医師を「上手に働かせること」が必要なのに、その現場の医師のたくさんの反対意見をまるで聞かずに、何をやろうとしているのだろう。現場の医師を敵に回して、それでも厚生労働省が今まで通り立っていられると思っているのだろうか。
いつまでも奴隷のように扱われるなら、医師を辞めることも厭わない知人が、私のまわりには増えてきている。医師を増やそうと舛添厚労相と福田首相が合意したらしいが、現場の医師がいなくなったら、新しく養成する医師を一人前に育てる医師もいなくなる。そうなったら厚生労働省が全部一人で引き受けてちょうだいね。
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いつもお世話になっている「産科医療のこれから」に、本山先生による「大綱の問題点ピックアップ」が載っている。そちらもあわせてお読み下さい。
http://obgy.typepad.jp/blog/2008/06/post-1341-40.html