日本医師会は6月11日の定例記者会見で、「DPCについての日本医師会の見解(その1)」を発表した。意訳すれば「厚生労働省によるDPCのまとめは、歪んでいる」という内容だ。
DPCというのは、診断群分類・包括評価などとも呼ばれる、病院に入院して医療を受ける時の医療費の計算方法の一つである。このブログでは、海外のDPC類似のシステムと比較して、日本のDPCは多くの欠点を持つ仕組みだと、何回か解説してきた。
2007/3/16
「DPC入院の分析結果」
2007/8/4
「DPC一部改良?」
2007/8/21
「大学病院などがDPCから外れる?」
2008/1/22
「DPC勉強会」
日本医師会の今回の見解は、これまでこのブログで述べてきた「DPCの問題点に目をつぶるな」という意見と、方向は同じである。他の国ではDPC類似の仕組みがそれなりに成功し、どうして日本ではうまく行かないかというと、他の国では「非合理な医療と過剰な儲けを削る」仕組みとして機能しているが、日本では「医療に必要なコストまで削る」仕組みになってしまっているからではないかと考える。
日本医師会のホームページの中に、記者会見の資料をまとめたものがある。
「DPCについての日本医師会の見解(その1)」
その資料の中には、厚生労働省が調査結果を都合のいいように解釈していることが、たくさん指摘されている(資料の中で黄色い地色で書かれているところが、日本医師会の見解)。厚生労働省よりも日本医師会の方が、客観的に調査結果を見ているように思う。客観的に見ている人たちではなく、主観的に見ている人たちによって日本の医療政策が決められてしまうというのは、間違った構造である。
話はぐっと小さくなるが、私が働いている諏訪中央病院では「DPC導入を成功させよう」というのが、今年の病院目標に入っている。前にも書いたように諏訪中央病院は「DPC準備病院」という状態だが、病院幹部は「できたら来年度からDPC病院に」と言っている。実際にDPC病院になるかならないかは、国が決める。
私は個人的には、諏訪中央病院が全面的にDPC病院になるのは、適切ではないと思っている。そのことは医局会や勉強会でも何回か発言したが、糠に釘とか暖簾に腕押しとかいうことわざを思い出さざるを得ない反応であった。他にもいくつか思い出した。豆腐に鎹、馬の耳に念仏、柳に風とか。猫に小判はちょっと違うか。どうでもいいですね。
あまりにたくさん勉強会があった週だったのでブログには書かなかったが、今年の5月23日に松本の相澤病院の院長補佐・宮田和信先生をお迎えして、クリニカルパスとDPCの勉強会が諏訪中央病院でおこなわれた。相澤病院は、DPC病院の中でも、全国のトップを走っている病院である。
その時に思ったのは「DPC病院で生き残っていくには、常に走り続けていないとダメだ」ということだ。医療従事者だけではなく、患者さんも走り続けることが要求される。そのような仕組みが茅野の医療のど真ん中にデンと構えているのは、あまり茅野の状況に合っているとは思えない。それなりの規模のDPCが茅野の医療の中にちょこんと座っているのが、似つかわしい姿だと思う。
DPCでは、5年で3割のコスト削減がおこなわれる危険があると、4月頃の日経メディカルnetに書いてあった。DPCを導入した病院は今までは儲かっているが、儲けを出そうとコスト削減を頑張れば、厚生労働省が「へー、それだけでできるんだ。じゃあDPCのお金をちょっと減らしても大丈夫だね」と、さらに診療報酬を削り込んでいくというのだ。この仕組みはすでに始動していて、それでも儲けを出すにはさらにコスト削減を頑張らざるを得ない。診療報酬が必要な医療を提供できる金額を割り込んでも儲けを出すには、必要な医療を全部は提供しないか、まだ医療が必要でも強制退院させるしかない。いずれも、患者さんにとっては「受難」になる。
今回の「日本医師会の見解」のまとめは、次のように書いてある。
結論(今後の目指すべき方向性)
1.厚生労働省に指導監査やDPC対象患者の外来診療を含めた診療内容等の詳細データの公開を求める。それによって医療機関経営におけるDPCの実態を明らかにすべきである。
2.患者の視点からも実態調査を急ぐべきである。問題がある場合には、DPCの拡大を凍結する。
3.医療費の抑制が行き過ぎ、フリーアクセスの制限につながらないよう、DPCからの撤退は自由にすべきである。
これらの要望は、日本の医療をダメにしてしまわないためには必須の事項である。日本人の健康に責任を持っているはずの厚生労働省には、これに反対する理由があって良いはずはない。もう一つ、DPCから撤退して出来高制に戻った病院をいじめるような仕組みを作らないことも、個人的には要望したい。
さまざまな「医療費抑制政策」が限界に来ている現在、これ以上医療費を抑制することは、医療現場のやる気も雰囲気も悪くするし、医療が必要なのに受けられない人がどんどん増えることになる。経済財政諮問会議や福田首相が「それでも抑制は続ける」と言っているが、国民の合意が得られる時代ではなくなっていることに、気付くことができるだろうか。