財務省OB(とはいってもまだ若いが)で厚労省に出向していた村上正泰氏が、医療制度改革についてざっくばらんにコメントしている。医療制度改革に直接関わった元官僚だ。
記事は次のとおり。信濃毎日新聞では
厚労省OBの5日の記事の翌日、6日に掲載されていた。
病床削減策、順序違う 厚労省で医療制度改革に携わった村上正泰氏 インタビュー企画「高齢者医療を問う」
共同通信社【2008年5月8日】
-後期高齢者医療制度の混乱が続いているが。
「保険料が以前より増えたのか、減ったのかが問題になっているが、中長期的にはどんどん増えていく仕組みになっている。今後、今以上に問題となる可能性が高い」
-制度策定時の厚生労働省内での認識は。
「もともと、75歳以上の医療費がかかる人だけの独立保険が保険としてどうかという議論はあった。(制度を運営する)保険者を見つけるのは難しく簡単には実現しないという見方が強かったが、(都道府県単位の)広域連合案が浮上し一気に話が進んだ経緯がある」
「『後期』の名称は、多少違和感はあったかもしれないが、75歳以上を示すためで、あまり問題とされなかった」
-高齢者が多く入院する療養病床を削減する計画があるが。
「政府の経済財政諮問会議で、医療費をGDP(国内総生産)と連動させる案が出され、厚労省が代わりに平均入院日数の削減と生活習慣病対策を提案した。入院期間の長い療養病床を減らせば、入院日数を削減できるという発想だった」
-削減見通しはどうやって決めたのか。
「当時、在院日数削減の数値目標については検討していたが、療養病床の削減数を示す予定はなかった。しかし、同時期(2005年末)の診療報酬改定案で(療養病床で)医療の必要性の低い人の医療費が病院の採算が合わないほど下がり、急きょ15万床に減らせるということになった」
-療養病床削減が「介護難民」を生むといった不安がある。
「長期入院による無駄な医療費を減らす方向は正しい。しかし、受け皿がないままでは、適切な医療が受けられない人が出てくる。政策の進め方の順序が逆だった。自宅ではなかなか介護を受けられない。先に受け皿をつくるべきだった」
-社会保障費の削減が続き、医療や介護などの現場が疲弊しているとの指摘があるが。
「抑制策は限界に来ている。薬漬けなど削るところがないわけではない。しかし、削減したとしても、小児科や産科など手厚くすべき所もある。国際水準で日本の医療費の対GDP比は低く、増やしてもいいぐらいだ。これ以上やると、ただでさえ崩壊している医療がさらに壊れてしまう」
「財務省は財政再建至上主義だが、政治家などからも指摘が相次いでおり、そろそろ限界だという認識はあるのではないか」
× ×
むらかみ・まさやす 1974年生まれ。評論家。97年、大蔵省(現財務省)入省。厚労省保険局出向を経て2006年、財務省退官。
(記事ここまで)
これはもう「暴露」といってもいい内容だ。「医療制度改革」が社会保障の確保を目指したものではなく、社会保障費削減を目的としたものであることは、外部からは度々指摘されてきた。しかし改革に直接関わった人がこれだけ正直に語ったのは、新聞では初めて見た気がする。
雑誌では村上氏は何回か医療制度改革について記事を書いているらしい。日本共産党の小池晃氏が、2008年4月8日の参議院厚生労働委員会一般質問で取り上げている。
(
小池氏ホームページの速記録から)
- 小池晃君
(前略)あわせて、ちょっと医療に関連して、中央公論の三月号に村上正泰という方が「このままでは医療・介護難民が発生する」という論文を、文書を発表しておられる。今日、資料の五枚目に入れておりますが、この方は今週発売の週刊東洋経済にも同趣旨の発言を写真入りでされていますね。
この村上正泰という方は、いつからいつまで、厚労省のどのポストにあったんですか。
- 政府参考人(水田邦雄君)
この村上正泰氏は平成十六年夏から平成十八年夏まで保険局総務課に在籍されていたと記憶しております。
- 小池晃君
厚労省では医療費適正化計画、後期高齢者医療制度などの改革法案の作成にかかわってきたということですね。
- 政府参考人(水田邦雄君)
この方は保険局総務課の課長補佐をしておられましたので、医療保険制度全般に関する業務に参画しておられたと記憶しております。
- 小池晃君
この文章の中で村上氏は、三十八万床の療養病床、二十三万床も削って十五万床にしてしまう、今から振り返れば、本当に大丈夫なのだろうかというふうに書いています。
この決定過程についても詳しく述べていて、二〇〇五年十二月の与党の医療制度改革大綱のときには具体的方針なかったけれども、〇六年度の診療報酬改定で急に医療区分一、この点数が出てきて、これでは不採算になるんじゃないかと。そうしたら、介護の世界からも、それまで介護保険制度改正のときは全く議論されていなかった介護療養型病床の廃止が急に老健局から持ち込まれてきたんだと。それぞれ縦割りでみんなが勝手にやっていて、まとまったものを見ると大変なことになっているということに愕然としたというようなことが書かれていて、村上氏は、二十三万床の病床削減が縦割り行政の弊害により細部にわたるまで十分な対応が練り上げられないまま打ち出された、患者の受皿が整備できるのか不確かなまますべてが突然決まったというようなことを書いております。これ、書いていることがすべて正しいかどうかという、これは分かりませんが、その当時いろんな形で言われてきたことがかなり裏付けられるような話に私は読めた。
大臣、こういうやっぱり政策決定過程の在り方というのは大変問題があるんじゃないかと思いますが、ちょっと大臣、時間ないから大臣に答えていただきたい。
- 国務大臣(舛添要一君)
今この論文を初めて見ますので、きちんと読んでみてどういうことであったかというのをお答えしないと、ぱっと見ただけで時間がありませんので。
ただ、基本的にはやっぱり、例えば分かりやすい言葉で言うと、社会的入院というのをいかに減らしていくか。医療資源というのは限られているわけで、それを最適な配分をすることによって持続的な医療制度、国民皆保険制度を守っていくと、そういう視点が必要なので、ここに書いている縦割り行政ですか、そういうことできちんと政策プロセスがいっていないということが本当かどうか、私もまだ読んでいませんから分かりません。
しかし、厚生労働大臣としてやっぱり考えることは、国民の幸せのためにどういうふうに医療資源を適正に使うかということに尽きると思います。それは財源にしても、野方図に国民にお願いするわけにはいきません。限られた財源を使って最も効率的なことをやる。しかし、例えば療養病床の削減計画にしても、問題があればそこで調整をしながらやっていく。そういうきちんとしたブレーキも掛けながら、そして全体像を見ながら私はやっていきたいと思っております。
- 小池晃君
しかし、これはブレーキ掛かっていないんじゃないかと。この文章の中でも最後に言われているのは、やっぱり経済財政諮問会議の二千二百億円の削減先にありきでいろんな政策決まっているから大変な事態になっているんだということが書かれています。(後略)
- 国はまだ「社会保障費削減」をやめないのだろうか。それが国の屋台骨を蝕む行為だということに、いつになったら気付くのだろうか。
社会保障費を必要以上に削減すれば、必要な社会保障を確保するためには誰かが自腹を切らなければならないし、それをする人がいなければ必要な社会保障を得られない人が出てくる。社会保障を必要とするのは社会的弱者であるが、社会的弱者になったことは「自己責任」にしたい勢力が、社会保障費削減を声高に叫んでいるように見える。そうしないと自己の行動を正当化できないからである。
私は、社会保障が必要な人には、社会保障を確保するべきだと思う。社会保障を闇雲に拡大しようとする勢力があれば、それは戒める必要がある。しかし社会保障がどれだけ必要かという議論なしに、削減目標だけが決まるような政治は、国民のための政治とはいえない。
政治は国が国としてしっかり立っていられるために行うべきである。そのためには大企業の経済も大切だし、他国との関係も大切だが、国民をないがしろにしては成り立たないはずである。お祭り騒ぎの総選挙の結果行われた小泉構造改革は、国が倒れてしまわないためには必要な部分もあったかもしれないが、社会保障に関しては大きく実勢を読み違っていたと思う。
社会保障分野に関しては、今、小泉構造改革と訣別しなければ、その損失は経済の「失われた10年」どころではなく、数十年におよぶだろう。これから世界最先端の高齢化社会に突入する日本は、それをプラスにするような国の運営をおこなって、世界に尊敬される国になってほしい。医療介護福祉の規模が拡大すれば経済も活性化するという、適切な制度設計は必ずできるはずだ。「削減することが何よりも重要」というのは、その努力と工夫を放棄しており、頭の良い国家運営とは、どうしても思えない。