後発医薬品の普及がなかなか進まないことに業を煮やしたのか、後発医薬品の使用を強制する方針を、まずは生活保護を受けている人から始めるようだ。4月27日付の毎日新聞から。
記事は次のとおり。
ジェネリック医薬品:生活保護には安価薬 不使用、手当打ち切りも 厚労省通知
毎日新聞社【2008年4月27日】
◇専門家「患者の選択権奪う」
全額公費負担で医療を受けている生活保護受給者への投薬には、価格の安いジェネリック(後発)医薬品を使うよう本人に指導することを厚生労働省が都道府県や政令市などに通知していることが分かった。指導に従わなかった場合、生活保護手当などの一時停止や打ち切りを検討すべきだとしている。後発薬は価格が安い半面、有効性などについての情報不足から使用に抵抗感を持つ医師や患者もおり、専門家から「患者が選択できないのは問題だ」と批判が上がっている。(社会面に関連記事)
後発薬は、研究や臨床試験を経て認可された先発医薬品の特許が切れた後に同じ主成分を使って製造されるため、多額の研究開発費がかからず安い。認可時には、血液中に成分が浸透する速さや濃度が先発薬と同じかどうかを確認する試験などがあり、国は「有効性や安全性は先発薬と同等」と判断。年々増大する医療費の削減に有効として使用を促進しており、08年度は後発薬の使用により220億円の医療費削減を掲げている。
一方、主成分以外の溶剤やコーティング剤などが先発薬と違うことなどから、「先発薬と(効能が)まったく同じではない」として、後発薬の使用に抵抗や不安を感じる医師や患者もいる。
通知は4月1日付。医学的理由で医師から指示され先発薬を使う場合を除き、生活保護受給者が医療機関で薬を処方される際、都道府県や政令市などの所管する福祉事務所が後発薬を使うよう本人に周知徹底する、としている。
これを受け受給者は、医療機関で受診する際、後発薬を処方するよう医師に求めることになる。
先発薬を使い続けている受給者については福祉事務所が診療報酬明細書をチェックし、正当な理由がない場合は口頭や文書で指導する。それでも従わない場合は保護の一時停止や打ち切りを検討するとしている。
厚労省保護課は「生活保護の医療扶助は最低限の医療を受けてもらうのが目的。安全性や効用が同じなので安い後発薬の使用に問題はない。窓口で3割負担する人と比べ、負担のない受給者は(自ら)後発薬を選ぶ動機が働きにくく、制度に強制力を持たせないといけない」と説明している。【柳原美砂子】
◇強制はおかしい--医事評論家の水野肇さんの話
後発薬は先発薬と完全に同じものではなく、薬を変えられれば不安を感じる患者もいるだろう。国が安全性や有効性を十分証明した上で患者が選べることが重要。生活保護受給者だからといって後発薬を事実上強制するのはおかしい。
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■ことば
◇ジェネリック(後発)医薬品
先発医薬品(新薬)の特許(20-25年)が切れた後、同じ成分で製造される薬。ジェネリックは、商品名でなく成分の一般名(generic name)で呼ぶことに由来する。開発コストは新薬の数百億円に対し、数千万-1億円程度と低く、価格は先発薬の約7-2割。普及すれば薬剤費を大幅にカットできるとされるが、国内の普及率は17%(06年)にとどまり、6割前後の欧米諸国と比べ著しく低い。後発薬メーカーは約240社、認可された後発薬は約6000品目あり、先発薬(約3000品目)より多い。
(記事ここまで)
先発品と後発医薬品が全く同等なのであれば、それでも後発医薬品を使用しないというのはただの「抵抗勢力」だろう。しかし、
「国は『有効性や安全性は先発薬と同等』と判断」というが、同じ試験が課されているわけではない。それを同じと考えろといわれても、素直には従い難い。
生物学的同等試験を課しているから効果も同等であると、国はいう。後発医薬品の会社も、そのようにホームページなどで説明している(
例)し、Wikipediaにも次のように書かれている。
先発品と同じ主成分でも、添加物などの副成分は異なるため、効果が異なるとの指摘もみられるが、先述の生物学的同等性試験によって先発品・後発品の同等性は科学的に証明されているのであり、この指摘は誤りである。
しかし先発品に義務づけられている試験と後発医薬品に必要な試験は、全く内容が異なる。先発医薬品に関しては、何段階かの治験(実際に患者さんに投与する試験)が義務づけられている。後発医薬品には義務づけられていない。
後発医薬品に求められている生物学的同等性というのは、薬を投与した後どのように体内に吸収されて、どのように代謝され(消え)ていくかを見る試験であるが、おもに健康体の人に実験台になってもらい、そのデータを採取する。しかし健康体の人に投与することが望ましくない薬剤については、動物実験で代用することも可能となっている。
薬剤溶出試験も1997年から義務づけられているが、それ以前に発売されたすべての後発医薬品について試験が終わっているわけではない。そのあたりの状況は
3月の記事に書いたので、ここでは省略する。
これらの試験結果だけをもって、すべての後発医薬品が使い勝手も含めて先発品と全く同等だといわれても、これまでの厚生労働省のいいかげんさも手伝って、なかなか「ハイそうですか」とは従いにくい。国が「絶対同等です」というのであれば、その根拠を医師や薬剤師や国民にわかりやすく、十分に説明してほしい。強引に後発医薬品を使わせるよりも、そちらの方を優先すべきだろう。
後発医薬品でも、先発品と同等の薬がたくさんあることは“経験的に”知っている。しかし信頼しても良い後発医薬品があるということと、すべての後発医薬品を信用すべきかどうかは、全く次元が違う話である。信頼しても良い後発医薬品を信頼するのは、ほとんどがその製薬会社の努力の結果である。信頼できる後発医薬品製造会社になるには、かなりの努力が必要なはずである。
後発医薬品の会社には、医療現場の信頼を得ようという努力が、今のところ感じられない。
「日本版オレンジブック」というところで情報提供をしてはいるが、公開から6年経つのに「工事中」「準備中」が目立つ。また、その中に出てくる後発医薬品製造会社の名前は、聞いたことがないものが多い。情報がない「1錠6円」の薬を信用しろといわれても、逆に「使わないでくれ」といいたくなる。
品質や安全に関する情報提供をしていては、それにコストがかかって後発医薬品を安く作れないというのであれば、後発医薬品の処方はいつまでたっても増えないだろう。安全性と同等性が完璧であると言い張るのなら、それを十分に知らしめてから使用促進を図るのが筋である。後発医薬品製造会社にそのコストが負担できないなら、負担できるように薬価を少し上げるか、国がそれを代わりにすべきである。
それをせずに国が使用を強制するというのは、順番が違う。本当は安全性も同等性も保障はできない薬が混ざっていることを認識しているのなら、もっと順番が違う。「生活保護者は国や地方自治体が養っているのだから、生殺与奪の権利も国や地方自治体にある」と考えているようにも感じるが、そうだとすれば思い上がりも甚だしい。
厚生労働省が、日本国憲法より上位に置かれたことは、これまで一度だってない。もし厚生労働省が国民の生殺与奪権を持つべきだと考えるのなら、厚生労働省がそのように憲法を変えてからにしてほしい。国民の同意が得られるとは思わないが。