どこでも使えるわけではないが、がんの骨転移の痛みに有効な、放射線を出す注射薬を使える医療機関が、徐々に増えつつある。
今回の記事は、静岡県の話題を持ってきた。
放射性物質で新治療、がん患者の苦痛を緩和 静岡・聖隷三方原病院
毎日新聞社【2008年2月20日】
浜松市北区の聖隷三方原病院は今月から、がんが骨に数多く転移した患者の苦痛緩和のため、放射性物質「ストロンチウム-89」を注射する治療を始めた。県内では初めて。
乳がんや前立腺がんなどが複数個所の骨に転移した外来患者を主な対象としている。カルシウムと似た性質のストロンチウムが含まれた薬品を注射して全身を循環させると、代謝の激しいがん部分に蓄積する。すると、放射線の影響でがんの出す痛みの成分を抑えることができるという。効果は7-8割の患者に表れ、3-6カ月間持続する。周囲に放射線の影響はないが、患者の尿などに触れた際は手洗いを勧めている。
がんの骨への転移には従来、外部からの放射線治療がメーンだったが、転移が複数個所になると難しかった。今回の薬で、患者の生活の質を向上させられるという。放射線治療科の山田和成部長(42)は「国内の認可が昨年ようやく下りた。日本が遅れている緩和医療や放射線治療が一歩前進した」と話している。【竹地広憲】
(記事ここまで)
「放射線」と聞くとおっかないと思う人が多いようだ。特に日本人は、放射線というと原爆を連想する人が多いせいか、治療や検査の放射線に関しても拒否反応を示す人の割合が多いといわれている。それと医療政策が相俟って、日本では放射線治療をできる医療機関の数も、放射線治療を受ける患者さんの割合も、先進国平均よりかなり少ない。
今回の放射性薬品による治療は、特別な装置を必要としない。ストロンチウム89(商品名メタストロン)という物質を注射するだけである。ただし薬の管理の問題から、まだこの治療ができる病院は多くない。諏訪中央病院も現在は使えない。
ストロンチウム89は体内に入ると、カルシウムと同じように骨に運ばれる。がんの骨転移があるところは、特にカルシウムの入れ替わりが多いので、ストロンチウム89もそのようなところに集中する。
ストロンチウムはベータ(β)線という放射線を出す。ベータ線というのは、原子の中の電子が飛び出したものである。ガンマ線(電磁波の一種)などと比べて、いろんなものを突き抜けて進む力は強くなく、平均2.4mm、最大でも8mm進むだけだとされている。1回の治療で注射される放射性物質の量は最大でも141MBqという量で、まわりで被爆する心配はないし、体内被曝もほぼ問題にならない。
これまで骨転移の痛みに対しては、痛み止めの薬を使う他に放射線治療が多く用いられてきた。最近ではビスフォスフォネート剤という骨を溶かす細胞の働きを抑える薬も多く使われる。放射線治療は設備がない病院ではできないし、ビスフォスフォネート剤は長期にわたって使うと歯や顎のトラブルが出る副作用が、最近問題になっている。
それらの治療に対して、今回のストロンチウム89を使った治療は、利点が多いのではないかと期待されている。40か国以上の国ですでに使われており、日本でも平成19年9月21日に薬価収載され、使うことができるようになっている。副作用としては血液の細胞が減る「骨髄抑制」があり、繰り返し使う場合には3カ月以上間隔を開けた方が良いとされる。投与後一時的に痛みが強くなることがあるが、1〜2週間で痛みが和らぐ人が多いようだ。
骨転移の痛みは薬だけで何とかしようと思っても苦労することの多い痛みであり、治療できる薬が増えてくるのはありがたい。がん診療にかかわる人は、覚えておいて損はない薬だと思う。