医療崩壊が話題になっているが、歯科医療崩壊はだいぶ先行している。ワーキングプア歯科医もかなりな割合に上るらしい。
記事は次の通り。
歯科医に広がるワーキングプア
1月23日18時19分配信 医療介護情報CBニュース
 歯科医療に対する患者の要望(「保険で良い歯科医療を」全国連絡会の冊子を基に作成) |
産科・小児科・救急医療を中心に「医療崩壊」が各地で社会問題化する中、歯科医療がより危機的な状況にあえいでいる。2000年以降の相次ぐ診療報酬のマイナス改定で医療機関の経営が全体的に悪化したばかりでなく、歯科では73項目にわたる保険点数が20年間も据え置かれていることが影響している。歯科医師や歯科技工士らに支払われる診療報酬は先進国に比べ極めて低く、歯科医師の5人に1人が年収300万円以下、歯科技工士の3人に1人が200万円以下のワーキングプア状態に置かれているという。
歯科の保険点数の据え置きについては、小池晃・参議院議員(共産党)の質問主意書に対する昨年12月の政府答弁で明らかになった。答弁によると、1986年4月時点と同じ保険点数だったのは73項目で、エックス線画像診断・各種検査・フッ素塗布・歯周治療・鋳造歯冠修復など、ほとんどの歯科医療の基本的技術が含まれていた。
20年の間には消費者物価が1.5〜2倍になり、国民生活も様変わりしている。にもかかわらず、歯科医療の根幹となる保険診療の基本的技術料が変化していないことに関して、小池氏は「20年間も(保険点数の)引き上げが行われていないことは、この間の物価・人件費の伸びなどと比べても、明らかに均衡を欠く」と追及。
これに対し厚生労働省は「歯科診療報酬については、物価、賃金等の動向、経営状況、医療保険財政の状況等を総合的に勘案し、(中略)、必要な事項については重点的に評価し、適切に設定している」と答えている。
全国保険医団体連合会(保団連)によると、かつては医療費全体の12%あった歯科医療費が06年度は7.7%にまで下落。歯科医師・歯科技工士・歯科衛生士らに支払われる診療報酬は先進国に比べ極めて低く抑えられている。
昨年10月に保団連主催で開かれた「歯は命 歯科医療危機突破10.28決起集会」などでは、歯科医師の5人に1人が年収300万円以下、歯科技工士の3人に1人が200万円以下と報告。保団連は「日曜日や深夜まで診療している歯科が増えたのは、(開業時に医療機器等を導入するために負った)借金を返すために寝る時間を削って働かざるを得ない実態がある」と訴えるなど、歯科医業の収支は、歯科医師数の需給バランスの悪化も影響して、全体的に悪化の一途をたどっている。
患者と歯科医療担当者で構成する「保険で良い歯科医療を」全国連絡会の06年の調査では、歯科医療に対する患者の要望は「保険のきく範囲を広げてほしい」が00年調査より8ポイント上回って約8割にも達している。保団連は「新しい技術や安全性が確保されている技術を速やかに保険導入すること、臨床の実態に即したものを導入するよう要求することは当然」と指摘。
「政府の歯科医療軽視政策のもとで、患者・国民の要求に十分にこたえきれず、歯科医師をはじめ歯科医療従事者が苦悩している。先進国の中で日本は虫歯や歯周病の状況は最悪で、長期にわたり改定が据え置かれた項目をはじめ、歯科の診療報酬について適切な診療を確保するための十分な評価が行われるべき」と強調している。
(記事ここまで)
記事にもある通り、歯科の診療報酬は医科同様、冷遇が続いている。歯科は混合診療が認められているため、保険診療では利益が出なければ、自由診療部分で稼ぐしかない。自由診療部分は保険が利かないため「歯医者にかかるとお金がかかる」「歯医者さんは儲けている」「歯医者さんはお金持ち」と、みんな思っていたのではないか。
歯科が危機的状況にあることは、知っている人はだいぶ前から知っていた。成功しているのは上手に得意分野に特化したり、立地条件の良いところで開業したりした人だけで、それ以外はかなり収入が少ないと聞いていた。また、町では歯科医師が飽和状態となり、新規開業は無理。でも大学歯学部などでも十分な仕事があるわけではなく、歯科医としては食べていけない人が急増していたらしい。
歯科の危機的状況を招いたのは、診療報酬の問題だけではなく、歯科医療全体の組み立て方の問題もあるだろう。歯科医師数を需要に対して増やしすぎたため、歯科医が過剰な状態となり、過当競争となった。しかし日本の人口に対して歯科医師数が過剰だというわけではなく、歯科医師数を増やすのと並行して歯科医療需要を喚起する努力を怠った結果ともいえる。歯科医療需要はもっと喚起できるはずと考える理由は、日本人の歯の衛生状態は、先進国中で最低だからだ。
医科医療が歯科をそのまま追いかけることになるかといえば、そうはならないし、なってはならないと思う。歯科と医科の大きな違いは、歯科に比べて医科の方が、命にかかわる病気の割合が多いということ。もう一つの大きな違いは、第一線で働いている医師の数に比べて、医療需要が多いということだ。
医療需要が前線医師に比べて多い理由は、前線医師の不足と、必需ではない需要にも応じていることの両面がある。
前線医師の不足というのは、現在「医師不足」といわれて騒がれている部分である。産科、小児科、救急をはじめとした厳しい医療現場で働く医師は、ほとんどが病院の勤務医である。病院勤務医は以前から労働基準法なんか全然関係ない過重労働をしていたが、求められる医療が高度になってきたこと、インフォームドコンセントなどの仕事が増えたこと、医療訴訟の増加による防衛医療などにより、前線を退く医師が増え、前線医師一人あたりにかかる負担はますます増加している。
必需でない需要というのは、さまざまなレベルがある。軽い風邪なら、寝ていれば治る。その他の病気でも「医者にかかるほどではない」というものはたくさんある。そのような時にも医療を受けようとするのが「必需ではない需要」だ。今は医療の前線医師が圧倒的に不足している非常事態なので、必需ではない医療需要はなるべく減らすべきだと思う。
問題は、これは放っておいても大丈夫か、医者にかかるべきかの判断が難しい場合だ。そのような場合まで受診を抑制してしまうと、実はこじれて肺炎になっていた場合などには、命を落とすこともある。どこまでが「必需でない需要」で、どこからが「正当な医療需要」かは、はっきりした線引きはできないので、機械的に受診を抑制すると正当な医療需要にまで医療が供給されなくなる危険は増える。しかし4月から施行される後期高齢者保険制度は、まさにそのパターンである。
看護師についても、平均在院日数が短くなり医療が高度化しているのに、診療報酬が増えていないため、労働の厳しさに対して給与が相対的に減少してきており、そのためか現場から退く看護師は毎年非常に多い。子育てのために退職する看護師も昔から多かったが、看護師養成数というのはある程度の割合で辞めていくことを前提に決めているのではないかと思うほどだ。
これらに対して、今のところ成功しているのが薬剤師業界だ。薬剤師は養成数を飛躍的に増やすとともに、需要を増やすための活動と、増えた需要をまかなうための診療報酬の手当ても、同時に進めてきた。昔は病院や医院で薬を出すのが当たり前だったが、現在は院外薬局でもらうのが当たり前になっている。患者側としては一手間増えるが、何か優れた点があるに違いないと思って院外薬局に薬をもらいに行っているのではないだろうか。
実は院外処方と院内処方で比べると、院外処方の方が患者側が支払う医療費はだいぶ多い。病院内では十分な薬剤師の仕事がなかったのを、院外薬局を作らせることによって働き口を作り、院外薬局で薬をもらう時だけ算定される診療報酬を作ったり、院内と院外で同じことをしても院外薬局の方が診療報酬が高くなるようにしたりして(これは政治力によるものだろうと思う)、全体のパイを拡大することに成功している。
しかし薬剤師に回るお金を拡大したことで、医療費も増大している。ある患者さんの1回の診察に関して、医師の再診料より薬の処方料の方が高いというのは、適切な値札なのだろうか(前に書いた
「再診料、最悪の結果は回避したが」参照。院内処方ではこれがほとんど0円に近くなる)。厚生労働省がいう「医療費適正化」という名の医療費削減がこの先も進められるのであれば、薬剤師に回るお金がそのうち削られることになり、ワーキングプア薬剤師も量産されるのかもしれない。これは薬剤師業界としては言ってもらっては困ることかもしれないが、明らかにバランスを欠いていることは、私が言わずとも厚生労働省も気がついているだろう。
そろそろ厚生労働省も、行き当たりばったりだったり、業界団体の圧力でネコの目のように政策をコロコロ変えるために力を費やすのはやめにして、これからの日本の行く末をできるだけ正確に予測して、医療需要を見極め、必需ではない需要は抑えるための国民への根回しもした上で、適正な規模を維持するだけの予算を確保して欲しい。
もしそれをした上で今の医療政策をしているつもりなら、今後のビジョンを国民にわかるように説明する義務がある。国民も医療従事者も、厚生労働省の下僕でも奴隷でもない。国民と共通の理解の上に進んでいけるのが、厚生労働省のあり方としては理想的だと考える。