
午後6時から諏訪中央病院講堂で、佐久総合病院DPC対策委員長の西沢延広医師を招いて、職員向けのDPCに関する勉強会が行われた。タイトルは「佐久総合病院におけるDPC導入 -医療の質の向上を目指して- 」
DPCには、調査だけをおこなっていて診療報酬は出来高制のままの「DPC準備病院」と、DPCのデータに基づいて診療報酬が定額で支払われる「DPC対象病院」がある。世界的には前者が本来のDPC(支払いとは別の標準化・効率化ツール)であるが、日本ではDPCというと後者を指すことになっている(そのためこのブログでは時々“日本版”DPCという表現を用いている)。
諏訪中央病院は、DPCの調査はおこなっている(DPC準備病院)が、日本版DPCの導入はされていない。佐久総合病院は一昨年の4月からDPC対象病院になっている。
順序としてDPC準備病院になっていないと、DPC対象病院になれない。DPC対象病院になるかどうかは国が決めるので、DPC準備病院はいつ「DPC対象病院になりますよ」といわれてもいいように、心構えをしておかなければならない。諏訪中央病院は今、その状態である。そして、その心構えのための勉強会だ。
私は
以前からブログに書いているように、現行の日本版DPCにはかなり疑問を持っている。今日はその疑問がどれくらい解消できるのか、期待半分で聞きに行った。
西沢先生の話は、私の日本版DPCに対する疑問の解消にはならなかったが、非常に正直で痛快な話だった。要するに、DPCの問題点だと私が感じていることについては、西沢先生も同様に「DPCの欠点」と捉えていることがわかった。その内容をかいつまんで解説。DPC推進派が聞いたら「そこまで言うんじゃないよ」と思う内容もあるかも。
まず最初に、日本の問題として
1)国のお金がない
2)高齢者が増え、子供が減少する
→医療にかけるお金は絞らなきゃいけないと「国は」考えている。
そのためには
・保険料を上げる
・自己負担を上げる
に加えて、医療費の増加の抑制が必要。
↓
一律の診療報酬カットでは医療の質が低下する。
質のよい病院は残して、質の悪い病院は淘汰する。
淘汰するための道具として、DPCを使う
ベッドが少なくなれば、医師不足・看護師不足も解消。
↓
つまり、DPCによって医療費増加の抑制と、医療の質の向上を狙っている。
次にDPCの現状を提示。
DPC対象病院は、全国で360。DPCで診療報酬を算定しているベッド数は、約19万床。
DPC準備病院は、全国で1069。ベッド数は約28万床。
両方を合わせると1429病院、約47万床で、一般病床90万床の半分を超えている。
DPCが医療費を抑えつつ医療の質を高めるという部分についてはわかりにくいかもしれないが、DPCは医療をはかる「モノサシ」であるという面を利用する。
DPCというのは、どのような診断群(病気の分類)で、どれくらいの入院日数がかかったかなどがデータ化され、他の病院と比較ができるようになる。それにより自分の病院のどこが標準から外れているか、他の病院のどこを見習えばいいか、自分の病院の強い分野はどこかなどがわかる。それに基づいて、病院の医療を標準化し、レベルを上げることができる。これがDPCは「モノサシ」であるという意味。
DPCでは質の高い医療が経済的にも評価される。たとえば
・平均在院日数が短い
・術後合併症が少ない
・不必要な検査・投薬・注射をしない
・院内感染が少ない
・標準化が進んでいる
・看護スタッフが充実している
つまり、医療の質を向上させることが、収入増にもつながる。
DPC導入のポイント1)
DPC導入は、医療の質向上を目指しての出発点
↓
データを病院の医療の質向上に役立てる。
そのためには正確なデータ収集が重要。
DPC導入のポイント2)
佐久総合病院では、DPC導入が「患者さん本位の医療」を損なわないように、次のようなことを取り決めている。
・遠隔地の患者さん等の術前検査は、入院で行う。
(外来で検査に通うのが大変な場合)
・入院中の他科受診は妨げない。
(病院によってはかかれないところもあるらしい)
・週末・急な退院でも退院会計も行う
・経済的な理由での入院延長はしない
(7日入院が最大収入でも5日で可能なら退院)
DPC導入のポイント3)
病院全体でDPCに取り組む。
各職種が前向きに取り組む。
医師・看護師の負担を増やさないようにする。
(ここで佐久総合病院のDPCに向けた具体的な取り組みがいくつか紹介された)
DPCなどの包括医療は、標準化・効率化できるという利点がある一方で、粗診乱療つまり医療の質が低下するという問題が起きやすい欠点がある。それを防ぐのに有用なのが、クリニカルパス(手順の標準化)。
医薬品に関しては
・標準化の推進
・後発医薬品の導入
・高額薬剤使用の見直し
(血液製剤・抗がん剤)
・薬剤管理指導の充実
DPCを導入した病院における変化(平成18年度)
・平均在院日数は短縮
・病床稼働率は低下
・再入院率は上昇
・患者の診断群分布・死亡率は不変
・医療費減少傾向・後発品薬品使用増加
・外来での検査・外来化学療法増加(外来シフト)
・外来・入院ともに単価が上昇
(ここで、DPC導入の際に各職種は何をすべきかが紹介される。省略)
現在は診断群分類による「一日あたりいくら」(日が経つにつれてどんどん下がる)だが、いずれは「1疾患での1入院あたりいくら」になるだろうといわれている。その時にも生き残る病院になるには、DPCを「医療の質を上げる道具」として使えていることが活きてくる。
アメリカでも昔は出来高制で、包括評価になったときに淘汰が進んだ。現在生き残っている病院は、
1,都市部の病院
2,300床以上の病院
3,DRG/PPS(包括評価、DPCに似た制度)への準備をした病院
4,教育病院
ダーウィン「生き残るのは最も強い種や賢い種ではなく、最も変化に敏感な種である」
(講演内容ここまで)
質疑応答の時間があったので、2つ質問をぶつけてみた。
1)DPCを導入した病院の中には、明らかに手抜きとも見える質の低下を感じる部分がある病院もある。利益の確保は質の低下につながる制度だと思うが。
→
そのような病院もあるかもしれないが、佐久総合病院でそのような医療をしていたら、そこを改善するように働きかける。
2)相澤病院の相澤先生は、地域の中でDPC病院として成り立つには、後方病院がなければ無理だと発言していたが、諏訪中央病院は最後方病院なのでそのような病院を確保できない。諏訪中央病院は今の一般病床すべてをDPC病床にすべきか、それとも一部は後方病院の役割をするベッドに振り分けるべきか?
→
それは諏訪中央病院の院長先生が考えるべきこと。ただ佐久総合病院も最後方病院で、後方病院が確保できるという状況ではない。DPC病院が上で後方病院が下というようなことはなく、協力し合うような体制作りが重要(?)
この他に、私が緩和ケアの医師だと自己紹介して質問を始めたので
「緩和ケアの患者さんはDPC病院ではどうしても持ち出しになるが、そこは気にするなと言っている」と言われていた。
話を聞いて、日本の中で急性期病院として生き残っていくにはDPC導入は避けられないのだということはわかったが、DPCの最大の欠点である「とりあえず退院できる医療の中で最も安い治療」が利益を最大化する、つまり最善の治療でなくても安い治療が優れていると評価されてしまいやすい弊害については、疑問が解消されなかった。
佐久総合病院ではその問題に対して「良心」と「持ち出しの容認」で対応しているようだが、その2つこそが、ここまで医療機関の経営と医療従事者の労働環境を苦境に陥れた主因ではないかと疑っている。今のところDPC対象病院の収支は改善しているが、改善しているところを締めつけるのが厚生労働省の常道である。
DPC対象病院への締め付けが強くなった時に、良心や持ち出しの容認によって医療の質を担保している病院は、真っ先に経営が苦しくなるのではないか。不採算患者を周囲の病院に押しつけたり、病院から追い出したりする病院の方が、生き残れる制度なのではないか。それは日本の医療のあり方として適切なのか?
佐久総合病院では医療の質を下げないと言いつつ、数百万円の赤字に「なってしまった」人が数人いると、暗に医療費がかかる人の存在そのものが「悪」であるとも取れる表現をされた場面があったのが、少し気になった。
他にも、他国の包括評価制度は効率化を求めるためのツールであるが診療報酬とは直結していないのに、日本はどうして直結しているのかとか、DPCをものさしとして使う時に、そのものさしが正しい評価指標であるという保障はあるのか、DPCに入れず病院がなくなった地域の医療はなくても良いのか、今までさんざん議論されてきた後発医薬品のなし崩し導入は良いのかどうかなど疑問は尽きなかったが、西沢先生は厚生労働省の人ではないので、質問はやめておいた。
厚生労働省は、本当に綿密な計画を持ってDPCを完璧な制度に育てていく自信があるのかどうか、一度聞いてみたいものだ。(自信があっても大失敗に終わった医療福祉政策もたくさんあるので、自信があるだけでは全く不十分ではあるが)