今日の朝日新聞「時時刻刻」は「公立病院 実質赤字7000億円」というタイトル。7000億円ですよ。しかも累積ではなく年間。
記事は次のとおり(ネット上の記事は字数節約のため端折ってあるので、紙面上の記事を)。
公立病院 実質赤字7000億円 昨年度 自治体、繰入金重荷に
2007年12月28日【朝日新聞】
公立病院の赤字が急拡大している。約1000の病院について総務省がまとめた06年度決算では、自治体からの繰入金がなければ計上されていた「実質赤字額」の合計が、初めて7000億円を突破した。勤務医不足や診療報酬引き下げによる収入の落ち込みに加え、財政難の自治体からの繰入金が減少傾向にある。同省が今月、発表した公立病院改革ガイドライン(指針)は「黒字の達成」を病院を経営する自治体に突きつけた。急激な「改革」は、地域医療に混乱を及ぼす恐れもある。(加戸靖史、若松聡、浜田陽太郎)
「交付税頼み」崩れる
「実質赤字額」は、経常収支の赤字額に、自治体が病院の赤字穴埋めのために繰り入れた金額を加えることで、経営状況の実態を示す。06年度、全国973の公立病院の経常赤字は前年度比567億円増と急拡大し、過去最悪の1997億円に。自治体からの繰入金5100億円を加えた実質赤字額は7097億円に達した。
「親方日の丸で何とかなった時代から、倒れる時には倒れる時代に入った」と、川崎市病院事業管理者の武弘道氏は言う。これまで赤字でも病院経営が成立したのは、自治体からの繰入金があり、それを国の交付税が支えていたからだ。
民間企業なら建物や設備機器の更新に手持ち資金をあてることで、金利負担のある借金をできるだけ減らそうとする。
だが、公立病院の建設や設備更新は、借金で賄うのが普通だ。返済に充てる元利償還金の半分が自治体から繰り入れられ、交付税が「上乗せ」されることもあり、自己資金で賄うより有利と考えられた。
この「借金した方が、交付税が多くもらえる」という仕組みが、多くの自治体を「病院の名を借りた公共事業」(厚労省関係者)に走らせ、借金を膨れあがらせた。
公立病院も会計上、民間企業と同様に毎年、減価償却費を計上する。だが実際には支出されないため、将来の設備更新に備える手持ち資金として残る。そのため、「赤字が出ても手持ち資金の範囲内なら問題ない」と自治体も病院もとらえがちだった。
だが、三位一体改革のもとで交付税が削減され、自治体本体の財政が悪化。繰入金はピークの99年度から600億円近く減少。医師不足と診療報酬引き下げも重なって、手持ち資金も目減りした。借金返済に必要な資金の不足を示す「不良債務」を、104病院事業で計953億円抱える。前年度から約120億円の急増だ。
自治体財政健全化法の成立で、08年度決算からは、病院など公営企業の不良債務が一般会計の赤字と連結され、自治体全体の財政が査定される。
一般会計からの繰り入れがあれば、経常黒字が達成されるよう、経営改善を目指すべきだ――。総務省が21日に発表した指針は、自治体が08年度中に策定する改革プランに、こんなハードルを設けた。しかし、自治体からの繰入金が減る中で「黒字化」を目指せば、産科や小児科、救急、へき地など、不採算な医療から切り捨てられていく危険がある。
全国自治体病院協議会の小山田(こやまだ)恵(けい)会長は指摘する。「不採算分野など政策的な医療の明細を確定して、それに見合う費用を自治体は一般会計から繰り入れる。この前提がなければ、経営を健全化しても地域住民を苦しめるばかりだ」
(記事ここまで)
7000億円の赤字は累積ではない。1年間の赤字額である。とてつもない額だ。
さてここでクイズです。この7000億円という金額は、国民医療費に含まれているでしょうか?
すぐ正解を出してしまうが、この7000億円という金額は、国民医療費には含まれていない。国民医療費というのは医療に直接支払われたお金のことで、医療にかかった費用のことではない。
人件費も材料費も薬剤費も設備費も光熱費も安全対策費も、全部含めたものが医療にかかる費用である。これに対して、診療報酬で全部を賄うべきであるという意見もあるし、診療報酬と繰入金や補助金を合わせて賄うべきであるという意見もあるが、とにかく全部を賄わないことには医療機関は潰れてしまう。
ところが、自治体からの繰入金は99年以後は毎年減少している。そしてその減少幅を上回る勢いで、経常赤字が増大している。繰入金と合わせた実質赤字額はあまり変わらなくても、経常赤字額が増大しているということは、このままにしておけば地域の病院がバタバタ倒れるということだ。
城西大学経営学部の伊関友伸准教授が「まちの病院がなくなる!?―地域医療の崩壊と再生」という本を著した。現在の公立病院が抱えている「病院や自治体ではどうしようもない地域医療の状況」が、冷静に分析されている。この問題に興味のある方は、是非一度読んでいただきたい。
朝日新聞の記事は関連記事へと続いている。
医師ら抜け 内科や入院部門閉鎖 地域医療 募る不安
「市立病院の公設民営化も視野に医師招聘(しょうへい)に取り組んでいるがめどが立たず、予断を許さない」。大阪府南部の阪南市は、こんな内容のビラ約1万9千枚を、28日の朝刊各紙に折り込む。今年度、市立病院(185床)の赤字は、前年度の10倍近い10億円に達する見通しだ。02年に策定した「病院経営健全化計画」が裏目に出たことを物語る。
赤字拡大の直接の理由は、和歌山県立医大から派遣を受けていた医師5人が一斉に引き揚げられ、収入の4割弱を稼いできた内科が全面休診に追い込まれたこと。ベッド数は半分以下に減り、11月の外来患者数は前年同月の64%、入院患者は33%まで激減した。「内科以外の診療もできなくなったと思われている。風評被害だ」と勤務医の一人は嘆く。
引き揚げた理由について、同医大関係者は「過重勤務を緩和するために医師増員を阪南市に求めていたが、実施されなかった」と説明する。
だが、財政健全化を迫られていた市に、増員の余裕はなかった。逆に、02年度に約2億6千万円あった一般会計からの繰入金を03年度は半減。病院に対して、コスト削減と収益力の強化による「経営健全化」で赤字解消を求めた。
単年度の赤字額は少しずつ減ったが、医師らの間には、外部のコンサルタントを入れてコスト削減を迫る一方、待遇や施設改善を進めない市への不満が高まっていた。
病院会計を含めた同士の連結赤字額は少なくとも14億円を超す見通し。内科閉鎖に伴って退職勧奨に応じた看護師や技師らへの退職金負担が重くのしかかる。財政再建団体転落ラインも間近にちらつき、「病院と市が共倒れするのでは」との不安が広がる。
北海道・羅臼町国保病院は、06年度の医業収益が前年度比1億1300万円減の3億7200万円に落ち込んだ。医師不足に診療報酬減額が追い打ちをかけた。町は歳出規模38億円の一般会計から1億4400万円を繰り入れたが8700万円の赤字。町は国民健康保険事業の赤字も抱え、06年度の連結赤字の規模は「イエローカード」の状態だ。これ以上、病院に繰入金は出せない。
今年度も病院の医業収益が改善する見込みはない。医師・看護師の退職が相次ぎ、3月に夜間救急を、7月には入院部門を休止。国が推奨する「病院機能の再編」に沿う形で、来年の4月には診療所に「格下げ」して、経営効率化を図る。
同病院は町で唯一の医療機関。重症患者らは、夏場でも車で1時間かかる約65キロ先の中標津町の病院まで搬送しなければならなくなる。「地域によって事情は様々なのに、画一的な経営健全化を求められても……」と、同病院事務課の斉藤健治課長は話す。
(記事ここまで)
ここに例として挙げられている病院は、医師が大挙してやめてしまったなどの「医療体制の崩壊」が、運営を厳しくしているようだ。地域にとってなくてはならない病院でも、医師が減り、患者も来なくなれば、赤字額が増大していくのは当然である。
では、医師が比較的よく集まり、一部を除いて医療がほぼ今まで通りに存続できている諏訪中央病院(私が働いている病院)のような病院は楽々運営できているかというと、実はそうではないことも知っておいてほしい。
諏訪中央病院は、茅野市85%に加えて、諏訪市9%、原村6%(もしかしたら逆かも)の出資比率で構成された病院組合によって運営される、公立病院である。茅野市だけで運営しているわけではないことや、事務長が腰掛けではなく長く責任を持って仕事をする体制であること、今井澄前々院長や鎌田實前院長をはじめとした先輩医師の指導力もあって、公立病院の中ではかなり健全な運営をしてきた。
よその公立病院で噂に聞く年収800万円の掃除係などは、居すわる余地がないような合理化が、私が就職した94年には既におこなわれていた。そうして生み出した黒字を、地域に必要な不採算部門や設備投資に割り当てることで、病院としてはほぼ収支が釣り合うような運営をしていた。
山間地で不採算部門を抱える病院なので、いろいろ頑張れば赤字額は増大する。そのため、どこからどれくらいのお金(時には起債などの借金、時には補助金など)を引っ張って来られるかも、院長の腕の見せ所であった。そうして、地域に必要と思われる医療を、攻めの姿勢で確保し続けてきた。
診療報酬削減が本格化してきてから、運営が厳しくなってきた。病院の医療はそれまで以上に頑張っているのに、赤字になるようになった。赤字になっても、地域に必要な医療を真面目に提供していることを理解してくれている組合管理者(=茅野市長が管理者)は、「医業収支が黒字になっていれば良い」と言ってくれた。
しかしさらに診療報酬が削減され、医業収支すら赤字になるようになった。今のところ諏訪中央病院の医師数は、以前より増えている。そして患者数が増えていても、収支は逆に悪化している時もある。医師がいさえすれば何とかなるという問題ではないということだ。今の諏訪中央病院の状況を見る限り、地方で必要な医療を担っている公立病院が繰入金なしに黒字経営をするのは、不可能ではないかと思えてくる。諏訪中央病院はそれなりの流動資産を持っているらしいが、今の勢いで行けば数年で底をつくらしい。
私の考えでは、地方の公立病院が必要な医療を提供すれば、それにかかった費用は「医療費」であるべきだ。しかし「医療費削減」で診療報酬が削られ、診療報酬だけで自立できない公立病院には、自治体からの繰入金でつっかえ棒をして立っていられるようにするということが、当たり前におこなわれてきた。
ここに来て「つっかえ棒はけしからん。病院は自力で立て」と国に言われても、つっかえ棒がなければ立っていられないようにしたのは国だ。本来はつっかえ棒の分も含めて、医療費として診療報酬に含めるべきではなかったか。でなければ、前半の記事の小山田氏が言うように、不採算部門の明細を出して、その部分を根拠に基づいて公費から支出すべきではなかったか。
そのような救済策を取らずに、公設民営化や地方公営企業法の適用、PFI方式などでしのごうとしても、うまく行くはずがない。傷は深くなる一方だと思う。今の医療の経済構造のまま進むのでは、今後バタバタと地域の病院が倒れていくことは避けられないだろう。