先月下旬に
「心肺蘇生法に人工呼吸がいらなくなるかも」という記事を書いたが、またまた新しい方法が発表された。心臓マッサージで押す場所が変わるかもしれない。
記事は次のとおり。(Medical Tribuneから)
胸部ではなく上腹部を圧迫
1人でも可能な心肺蘇生法を考案
〔米オハイオ州クリーブランド〕パーデュー大学(インディアナ州ウェストラファイエット)ウェルドン生物医用工学部のLeslie Geddes教授らは,従来の胸部圧迫ではなく,上腹部を圧迫する改良型心肺蘇生(CPR)法を考案し,詳細をAmerican Journal of Emergency Medicine(2007; 25: 786-790)に発表した。
救助者の感染リスクを排除
Geddes教授らは新しい方法を,ただリズミカルに上腹部を圧迫するCPR,略してOAC(only rhythmic abdominal compression)-CPRと呼んでいる。
1960年代から用いられている蘇生法は,救助者が胸部圧迫30回につき 2 回の人工呼吸(患者の口に息を吹き込む)を行うものだが,同教授らは「OAC-CPRは古いCPRに取って代わるだろう。この新しい方法の必要性は非常に高い」と指摘。「胸部を圧迫する従来のCPRでは,心停止からの蘇生成功率は 5 〜10%にすぎない。さらに,その成功率は救助者がどれほど早く現場に到着できるかにかかっており,1 分遅れるごとに成功率が10%ずつ低くなっていく。つまり,従来型のCPRでは心停止から10分経過した段階で蘇生行為が全く無効となる」と説明している。
別の問題として,マウスツーマウスの人工呼吸による感染リスクが挙げられる。このため,救助者のなかには感染リスクを理由に,マウスツーマウスを拒否する者が出てくるという問題もある。しかし同教授によると,新しいCPR法ではこれらのリスクを排除できる。
肋骨骨折の危険も回避
OAC-CPR法では,上腹部を 1 回圧迫するごとに横隔膜が頭部側に押し上げられ,肺から呼気が押し出される。そして圧迫が解除される瞬間に吸気が行われる。したがって,従来法では心臓マッサージ30回につき人工呼吸 2 回であったが,OAC-CPRでは救助者が 1 人でも,上腹部を 1 回圧迫するごとに 1 回の呼吸が得られる。
Geddes教授は「われわれは,胸部と上腹部の圧迫を交互に繰り返すと,2 倍の血流が得られることを1980年代には気付いていた。そこで,今回は胸部の圧迫を全く行わずに上腹部のみの圧迫を行うとどうなるかを考えた。従来型CPRでは,時に冠動脈の逆流が生じ,脱酸素血液が心筋に送られるが,OAC-CPRではこの問題を排除できるという利点もある。従来型CPRで推奨されているのと同じ強度で圧迫した場合に比べ,OAC-CPRでは冠動脈での逆流が発生せず,心筋への血流が25%増える」と主張している。
米国心臓協会(AHA)が従来型CPRで推奨している圧迫は100ポンド(45.4kg)の力で100回/分というガイドラインに沿っているが,同教授らは「実際にはそれほどの強度・回数は必要ない」とし,さらに「上腹部のみを圧迫する心蘇生法では,肋骨骨折をもたらさないという利点がある」と付け加えている。
(Medical Tribune[2007年10月18日 (VOL.40 NO.42) p.01])
(記事ここまで)

これまでの心臓マッサージは、図の赤いところ、胸骨の上から心臓を圧迫するのが常識だった。「心肺蘇生法」の講習を受けたことがあるひとは多いと思うが、すべての人が「胸骨を押す」と習ったはずだ。
今回発表された方法は、図の青いところを押す方法だ。みぞおちの柔らかいところを押して、心臓を外から動かす。胸骨を押すこれまでの方法に比べて、少ない力で同じ効果が得られ、心臓に酸素を送る血管に酸素が少ない血液が逆流することも少ないという。
「肋骨骨折をもたらさないという利点がある」というのも魅力だ。医療現場で働いていると心臓マッサージをする機会は時々あるが、高齢者など骨の強度が落ちている人では、骨の強度が十分な心臓マッサージの力に負けてしまうことは頻繁にある。
一つだけ気になる点がある。心臓マッサージをされる人は、意識がない。体の仕組みもきちんと働いていない。腹部を押すことで、胃袋の中にある食べたものが食道を逆流してのどまで上がってきたら、それが肺に入って肺炎のもとになる。まずは心臓が助かればいいという考えもあるかもしれないが、ギリギリの状況で肺炎があるかないかは、救命率に大きくかかわる。
今回発表された方式が、これまでの方法より肺炎などの合併症が少なく、コツを身につけるのがさほど難しくないことが実証されれば、心肺蘇生法は劇的に変わるだろう。実験や研究はそう簡単ではないかもしれないが、正しく比較してどちらがより有効な方法であるか、早めに結論が出ることを期待する。