医師法20条のただし書き部分(死亡診断に関する24時間ルール)について、医療現場では誤った解釈をしている人も結構多いと感じていたが、それについて厚生労働省から通知が出された。
記事は次のとおり。
厚労省、医師法20条で解釈通知
24時間後も診察すれば死亡診断書の交付は可能
2012年9月5日 島田 昇(m3.com編集部)
http://www.m3.com/iryoIshin/article/158304/
厚生労働省は8月31日付で「医師法第20条ただし書の適切な運用について(通知)」を出した。これは、医師が自ら検案せずに検案書を交付してはならないことなどを規定する医師法20条の解釈通知。最近、増加している在宅医療における看取りの現場などで、誤った法解釈をする医師が死亡診断書を書けないなどとする指摘があったことを受けた対応だ。
問題になっていたのは、条文にある「診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りではない」とするただし書。診察から24時間経過して死亡した患者に対し、医師がこのただし書を「死亡診断書を書くことはできない」と誤って解釈したり、異状死体などの届出義務を規定する医師法21条と混同して「警察に届け出なければならない」と誤解したりすることなどで、在宅での看取りが適切に行われないこともあるとの指摘があった。
こうした指摘を受け、解釈通知では、患者が診察後24時間以内に診察中の関連疾病で死亡した場合、「改めて診察をすることなく死亡診断書を交付し得ることを認める」と記した。また、診察から24時間経過した場合においても、改めて診療を行い、診察中の疾病に関連する死亡であると判定できる場合は「死亡診断書を交付することができる」とした。
誤って医師法21条と混同して解釈するとの指摘に対しても、「死体に異状があると認められる場合には、警察へ届け出なければならない」と明文化した。
医師法20条の解釈通知をめぐっては、7月25日に開催した参議院の「社会保障と税の一体改革に関する特別委員会」で民主党の梅村聡参議院議員の質問に対し、厚労省の辻泰弘副大臣が「医師法第20条の趣旨が正しく理解されるように改めて通知を出す」と明言していた。
(記事ここまで。m3.comは会員制で、会員でないと記事が読めないのだろうと思うが、大切な内容だと思ったので転載した。)

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医師法20条の解釈について、今回明示されたのは
・最終診察から24時間経っていなければ、ご遺体を診ないで死亡診断書を発行することができる
・最終診察から24時間以上経っていても、ご遺体を診て、これまで診ていた状況と矛盾する死亡原因が考えられなければ、死体検案書ではなくて死亡診断書が発行できる
ということだ。
どういう誤解が多いかというと、「最終診察から24時間以上経っていたら、死亡診断書ではなくて死体検案書になる」という誤解、もう一つは「最終診察から24時間以上経っていたら、異常死になるので警察を呼んで検視を受けなければならない」という誤解だ。
この誤解によって、たとえば在宅診療をしていた場合、「命が終わり近いと思ったら、遠くても毎日訪問診察をしておかないと、亡くなるタイミングによって警察沙汰になる」という強迫観念で、必要以上に訪問したりしていた。また、最終診察から24時間以上経過してから死亡診断書を書くことは、亡くなってからきちんと死亡確認をしていても「違法行為なのではないか」と心配している医師もいた。
極端な例では、「入院していても、たとえば休日で医師が診察してから24時間経過してしまっていたら、死亡診断書は書けないのではないか」と悩んでいる医師もいた。もう10年以上前だったが、その時は私も正しく理解していなかったので意見が言えず、医局の集まりか何かで「看護婦さんが看ているから、診察が継続していたようなものと解釈していいんじゃないか」という意見になったように記憶している。
厚生労働省の構想では病院のベッドは増えないらしいので、団塊の世代の年齢が増えていく今後20年ほどは、在宅医療の需要はものすごい勢いで増える。その中では、自宅で亡くなりたいという需要も、自宅以外の選択肢を選べない人も増える(厚生労働省は、病院での死亡数は増えない
(増やさない)予測)。在宅医療を提供する医師や看護師の数を、その需要に追いつく勢いで増やせるとは思えず、病院より「まとめて仕事ができにくい」在宅医療では、かなり厳しい合理化・効率化が必要になってくると予想している。
そんな状況の中で、(誤解に基づいて)「命が終わりに近い人には必ず毎日訪問診察をする」となれば、訪問する医師は疲弊してしまう。もちろん「後はいつ死んでもおかしくないから、息が止まったら呼んでくれ」と月1回程度しか診ないのでは少ないと思うが、落ち着いている人は週1回ぐらいでいい人もいる気がする。今回の通知が出たことによって、命が終わり近くなった人の診察も「24時間ルールの誤解」に縛られることなく、丁度いい頻度で診察を継続していいのだという理解が広まればいいなと思う。
この通知が出されたことで、心配するのは次の2点。
一つは、24時間以内に診察をしていた人が亡くなった時に、亡くなった後の体を診ることなく死亡診断書を発行しないでほしいということ(通知では認めているが)。人の死亡を診断できるのは、医師または歯科医師と今のところ決まっている。息が止まったという報告が来て「今日の昼に診てるから、死亡診断書書いときますね」ということをすると、もしかしたら薄ーく息をしていて後から目を覚ますという可能性がないでもない。やはり診に行って、確認してから書くべきだと思う。
もう一つは、異状死の可能性が否定できない時にも「死亡診断書でいいよね」と判断してしまう間違いが、増えないでほしいということ。これまで診ていた疾患によって死亡したと判断できる場合は死亡診断書でいいが、そうであるかどうか疑いがある場合や、明らかに違う原因がありそうな場合は、異状死として検視を依頼しなければならない。そういう場合にも「まあいいよね」と死亡診断書にしてしまうと、極端な例で言えば殺人事件の片棒を担いでしまう可能性もある。
日本法医学会の異状死ガイドラインでは、異状死体とは
「確実に診断された内因性疾患で死亡したことが明らかである死体以外の全ての死体」と定義している。ただこれだと、老衰による死亡も「異状死」になってしまう気がする。どのあたりに「予測された死」と「異状死」の境目を置くかは、現状では医師によってかなり差が出てしまうのではないだろうか。このあたりを明確にしないと、医師は混乱してしまうかもしれない。
今回の通知の内容は、知っている人には当たり前の内容かもしれないが、知らなかった人も結構多いのではないかと思う。記事で出したm3.comのアンケートでも、「知っていた」という人は半数ちょっとだった。医師以外にも、24時間ルールを間違って理解している人は、結構いるような気がする。正しく理解して使うようになればいいと思う。
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ここに気付いて国会で質問した梅村聡参院議員は、さすが。
記事を書いた島田さん、ここにいたんですね。
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