一般の人向けのがん情報誌はいくつも出ているが、そのうちの一つから原稿依頼が来た。でも断ろうと思っている。
一般向けのがん情報誌としては(順番はアイウエオ順)
・がんサポート
・がん治療最前線
・がんを治す完全ガイド
などがあり、普通の書店で誰でも買うことができる。この他にもいくつかの雑誌が生まれては消えていった。気になる記事があると、購入して斜め読みしている。一般向けの雑誌としてはどれも結構な値段で、財布と相談して立ち読みで済ませることもある。
役に立つ記事も多いのだが、読んでいてどうしても気になるのが、効くか効かないかはっきりしていない健康補助食品(代替療法)の記事と広告である。そういうものを一切排除している雑誌もあれば、かなりのページをそれらの広告に充てているものもある。
代替療法がすべてまやかしだなどとは言わない。私が診た人の中でも「これは代替療法が効いて、病気の進行が止まっているのかもしれない」と思った人はいる。しかしその割合は非常に少なく、代替療法の広告(というか広告本)に書いてあるような、夢のような「薬」だと信じていたら、痛い目を見る。
健康食品会社とそれを広告する本(バイブル本と呼ばれる)を売っている出版社が結託して、莫大な儲けを稼ぎ出すとともに、一般の人に「こういうものを飲めばがんが治る」という幻想を植え付けてしまった。薬事法や改正健康増進法などでこのようなあやしい広告はほぼ姿を消したが、健康食品でがんが治るという幻想はまだ根強く残っている。バイブル本の「○○がんが治った」という体験記は、病気と関係ない人が10人分くらいを一人で書いていたりしたそうだ。そのような広告を長年野放しにしていた新聞社や出版社の責任は大きい。「犯罪の片棒を担いでいました。ごめんなさい」ぐらいは言って欲しい。
代替療法というのは、日本以外のほとんどの国では、がんを「治す」ものとはとらえられていない。がんを抱えた身体が快適に過ごすため、という意味合いの治療だと考えられている。ところが日本では、代替療法は「西洋医学で闘いようがないと言われたときに治してくれるもの」ととらえられ、時には西洋医学で治癒が望める状態でも代替療法に行ってしまう人もいる。代替療法をやっているうちに進行し、病院へ戻ってきた人をたくさん見てきた。はっきり書いておくが、現状で西洋医学を上回る治療成績を出している代替療法はない。
日本では、代替療法の「がんを抑え込む力」が過大評価されているといえる。それを補正しようと考えているのか、健康増進法や薬事法にひっかからないためなのか、がん情報誌の代替療法の記事はこのところ控えめな表現が目立つ。しかし読んでいると「代替療法で高率にがんが治る」という幻想を覆すだけの力はない(というか、広告を出している会社に配慮している雰囲気がありあり)と感じる。
今回執筆依頼が来た雑誌も、そのような健康補助食品の広告が載っている。健康補助食品の広告は、「がんに効く」とは書いていない。品質がいいとか、製法が優れているとか、歴史があるとか、そのような謳い文句である。それぞれの健康補助食品がどのような効果を期待できるのかというのは、ときどき特集される「健康補助食品はこう使え」のような記事の中に書いてある。
そういう特集記事の中には、この成分はこういう効果が期待できる、これはどういう作用が期待できると、「それらを全部飲んでいれば万全」と受け取ってしまう書き方がされている。しかし、期待される作用は、理屈をこねた人の頭の中だけで成立するものであったり、ラットなどの実験では効果があっても人間では確かめられていないものばかりである。ひどいものになると、「○○という動物にはがんがない。その動物には××という特徴がある。だからその動物の成分を薬にすればがんが治る」などという、理屈にもなっていないものもある。
私が記事を書くことが、雑誌の信頼性を高めることになるかどうかは?だが、信頼性の高い記事と高くない記事が混在している雑誌は、信頼性の低い方に合わせて評価している。日本人は活字になっていると信用してしまう癖があるが、活字がすべて正しいと思っていると、振り回されてとんでもない人生になってしまう危険も大きい。
そのような理由で、今回の執筆依頼は受けないことにしようと思う。私の信頼性も「信頼性の低い記事」に合わせて評価してしまう人が少なからずいるはずだからだ。高額の原稿料を支払ってくれるというのなら、ますます受けたくないと思っている。武士は喰わねど高楊枝(武士じゃないけど)。