断酒後初めての慰安旅行。しかも海外とあって、少々気が
重かったが、避けていても始まらないと、気持ちを引き締めて
参加した。
到着後、家族に頼まれていたお土産を早々に買い揃えて、
準備万端。
リラックスして過ごそうと考えていたが、宴会、二次会と、
飲んで騒ぐのが目的のような場ではリラックスどころではなく、
ひたすら話す事と食べる事に専念していた。
祝辞としての乾杯、親睦を深める杯のやり取り、注ぎ注がれの
宴席は、飲まない私にとっては、非常に辛い場となった。
勧める、受ける、返杯するの繰り返しのなかで、飲まないことが
まるで礼儀知らずのような雰囲気のなか、自分はお茶を飲みながら、
お酒を注いでまわることで、何とか切り抜ける場面もあった。
機内で一杯、ホテルに着いて一杯、宴会で盛り上がり、二次会、
三次会へとハシゴしていくのが常であった自分が、
一滴も飲まないでそういう場をやり過ごしているのが、
なんとも不思議な気がした。
淋しい場面、辛い場面、情けない場面、虚しい場面が多かった
夜ではあったが、一晩目を乗り切ったことで安堵し、ゆっくり
寝ようと思っていたのだが、これは見事に打ち崩された。
相部屋の御仁は、高いびきというよりも、まるで猛獣の雄叫びの
ようないびきで、私を眠らせない。
うつらうつらするといびきで起こされるという繰り返しの中、
一睡も出来ずに朝を迎えた。
二日目は朝から出掛けて朝食をとり、関係会社工場を訪問、
スタッフとの昼食会となったが、現場の人たちとの食事は
楽しかった。
大勢で食事を共にして、食べる、話すという事を中心に過ごす
一時が、これほど楽しいとは、今までの会社の旅行では
思わなかったであろう。
夕食も同じことで、食べる、話すを中心に、大満足の時間を
過ごし、二次会も歌って踊ってと、少々疲れは見えたものの
興の醒めることはなかったように思える。
宴席の場を飲まずに乗り切るというよりは、飲まないなりに
楽しむことが出来た。
とはいえ、周りを酔客に取り囲まれ、目の前にはお酒がずらりと
並び、アルコールのグラスが所狭しと林立している中で、
一番気をつけないといけないのが誤飲である。
席を立った後などは、必ずグラスの中身を確認するように
していた。
気持ちの上では、ぐらつく瞬間というものもあった。
やはり、危険な酒席に出ざるを得ない場合は、まず、
何があっても飲まないと決めてしまうことである。
飲めば死ぬと思い切ってしまえば、どんな状況でも飲まずに済む。
危険な二晩を乗り越えてしまえば、もう後は楽なものだと
高を括っていた私だが、一つ忘れていた。例のいびきである。
初日はまだ元気があるので、まいったなぐらいであったが、
二夜連続となると疲れも出てきたところにかなりきつい。
再びの雄叫びのようないびきに、耳栓も何の用もなさず、
悪夢のような一晩を過ごした。
前日、かなり食欲旺盛であった私も、この朝はさすがにグロッキー
となり、食欲は無かった。
現地の人の案内で、龍頭山へと登り、その後商店をぶらついたが、
息切れを感じている自分に驚いた。
それでも、昼食はしっかり食べたので、何とか帰国まで
持ちこたえたようである。
家に着くとどっと疲れが出たが、お土産を喜ぶ家族の姿に
ホッとした。
家族のもとに帰り着くと、本当に普段となにも変わらぬ夜となる。
ああ、ここが自分の帰って来る場所なんだと、安堵の気持ちと
ともに改めて感じた。
断酒を継続していくものにとっては、酒席は避けられる
ものなら、避けた方が良い。
どうしても避けられないときは、その場に身を置く前の一瞬に、
飲まないと腹を決めてしまうことである。
気持ちの上では、死ぬも一瞬、生きるも一瞬という、大袈裟な
くらいな覚悟で、飲むも一瞬、飲まないも一瞬と同様に捉えて、
死なない、飲まない決意を固める事である。
普段からこの感覚では疲れてしまうが、ここという時には、
これくらいの力技がないと乗り切るのは難しい。
力と気合の入れどころをきっちり押えることが出来るように
なるには、やはり危険ではあってもそれなりの場数を踏まないと
いけないようである。
これで、一通りのパターンは経験した事になると思われるが、
まだまだ未経験の場もあるのは間違いない。
やはり、一日、一日ということに尽きるのである。