−−フライト事始めは北海道神宮参拝から−−
正月2日早朝。風はガスト(突風)をともない身を切るように冷たい。石狩湾で強い雪雲が発達しているのが機にかかるが、飛行場上空から札幌の都心方向にかけては青空で視程もすこぶる良好。これならクラブ恒例の上空からの「北海道神宮参詣」は可能だろう。
クラブ員が徐々に集まりはじめた。とにかくこの寒さでクラブ室は冷蔵庫のよう。どうせ寒いならばと、耐寒重装備して機体組立のため早速格納庫へ向かった。
強い風で飛行場のソック(吹き流し)はほぼ水平に寝ている。場内を見渡してもYS−11が運行しているだけで、自衛隊機はもちろん駐機場には他の航空機が1機も見えない。要するに貸し切り状態。我がクラブのために運用してくれているようなものだ。
この寒さにかかわらず、エンジンは一発でかかった。入念にエンジンを暖めた後、S・Sチームが98年の初のローカルフライトにでることになった。もちろん、正月恒例の北海道神宮参拝は予定の行動。ラジオ(航空無線)を聞いていると、タワーとの交信でそのS訓練生の声が飛び込んできた。
「サッポロタワー、2339(トウ・スリー・スリー・ナイナー)、今年もよろしくお願いします」
お正月だなー。我々もタワーに「謹賀新年!」とか言ってみようかしらん。
−−上空からの神宮参拝は、完璧なランディングで無事終了−−
彼らのフライト終了に続くフライト2番手は、われわれK・エルロンのチーム。ところが駐機場が薄氷で覆われているため、機体を回頭させるのも足下が滑ってままならない始末。こういう場合、エンジンをかけた途端に前方へ滑り出すから冬は怖い。誘導路も飛行場内の乾いた雪が吹き込み圧雪の滑りやすい状態。タキシング中は強い横風を受けるため、ときどきパワーを開いてラダーに強いプロペラ後流をあてながら直進しなければならなかった。
ランウエイ上に吹き込んだ粉雪を蹴散らすように滑走開始。引き起こしのタイミングを失するほどに、いくらも滑走しないうちに離陸した。
機体の動揺をなだめながら高度500ftで機首を左へ振り、上昇しながら北海道神宮のある円山をめざした。視程良好。眼下に北海道大学の農場、札幌競馬場が、遠くには真っ白な屏風を何枚も立てたように寒々しい峰峰が続いている。こうも寒いと、空冷式の暖房システムはいささか心許なく、上昇とともに足もとが冷えてくる。それよりも飛行場の気象変化が気にかかる。あの海上の雪雲が飛行場に覆い被さるのは一瞬であり、しかも一度飛行場を覆ったら回復の保証はない。
円山の山すそに北海道神宮が見え出すと、Kはマジな顔つきでかしわ手を打った。青空のもと、葉を落とした梢のすき間から人波がまさに波のようにうごめいているのが見える。その上空をゆっくりと右へ一旋転。そして左へ一旋転。上空からお詣りとは不敬な、と言われるかもしれない。が、乗馬をやっている者は馬で、飛行機をやっているものは飛行機で神社にお詣りにでかけるのはきわめて理にかなった行動様式。現に周辺の道路は、自動車をやっている人たちが北海道神宮を目指し、その列は道路を埋め、しかし固まったように動かない。
「ユー・ハブ」
今度は右席の神村と操縦を替わった。雪雲の動きに変化のないことを確認して、羊ヶ丘から大曲へ。帰路は北海道百年祈念塔から江別を経てKの自宅の上空を数旋転。そしてそこからランウエイ32への進入タワーにを要求した。数マイル先の滑走路を目指してストレート・イン(直線進入)するときの気分は、飛行場を独り占めしたかのような錯覚さえ覚える。まさにパイロットだけが味わえる至福の瞬間だ。しかも雪で覆われた滑走路への着陸は、巧みな操作のためか、はたまた粉雪が幸いしたのか、音もなく接地のショックもなく完璧に滑り込んだ。
−−春のフライトシーズンはもうすぐ!−−
北海道は1,2月が本格的な冬の季節。一方、日没時刻は、新年を迎えると日に日に遅くなる。2月初頭のさっぽろ雪まつりが終われば日差しは一気に強くなり、あとは本格的な春のフライトシーズンを待つばかりだ。
太陽は西に傾き、機体は格納庫に片づけられた。そしてクラブ室では、紙コップで残り物のワインをすすりながら、フライト談義が遅くまで続いていた。(「SKY SPORTS」4月号"98年初飛びレポート"掲載原稿より)

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