2009/9/6
望平穏少女奮闘記(REBORNパラレル夢)6 家庭教師ヒットマンREBORN!
特殊な学園のイベントで厄介事に巻き込まれる話。
―私が何か悪いんですか?
「…はあ」
外の空気に触れ、熱った身体が冷えるのを待った。
適当な木に精神力を奪われ切った肢体を預け、ボンヤリと輪を纏う月を見上げる。
今夜は三日月だ。
何処となくその形が今の自分を嘲笑っているかのようで、雅は少し眉をしかめた。
あれから何とか骸とのダンスを終え、演技も貫き通した。
例え再び手の甲に接吻を喰らい、女生徒の嫉妬の視線を独り占めしようとも、だ。
しかし何を思ったのか、それらの視線を分かっていながら彼の自分に対する行動はヒートアップした。
『名残惜しいですね。貴方との時間は短すぎる』
切なげに瞳を細めて髪を撫でられれば、大抵の女性はその世界観に酔うだろう。
周りから聞こえる感嘆の溜め息と、うっとりとした表情に頭を抱えたくなる。
それでも見事に雅はその空気に一体化した。
瞳を揺らし、顔を真っ赤に染めあげる。
恥ずかしそうに視線を少しずらし、口を開きかけて一度閉じてから、言葉を発した。
「…、私も、夢のような時間でした」
わざと周りを煽りやがって。
こっちの身にもなりやがれ。
幸せそうに骸を見つめるその表情を見る限り、彼女のその心の声を聞き取れる者はそうそういないだろう。
鋭さを増した女生徒達―特に骸指名の女性の視線を一向に受けながらも、仮面をずらしもしなかった自分に拍手を送りたい。
そんな思いを抱いた雅の、次の行動は決まっていた。
これ以上やってられるかと、第2ラウンド開始の合図として照明が落ちたのをいいことに抜けてきたのである。
ツナと踊れないのは残念だが、仕方ない。
スパナを初めとした、練習に協力してくれた人々に申し訳なさを感じつつ、光が漏れた窓を見つめた。
第2ラウンドが始まったらしい。
「…風が気持ち良いなあ」
冷気を含んだ風がサアッと通り過ぎるのを、目を閉じて感じる。
しかし、その音に混じり、何か自然のものとは異質の音が雅の耳に届いた。
―ヒュンッ
―ドッ
「…?」
何かが空気を切り裂く音と、鋭利なモノが何処かに突き刺さる時独特の、鈍い響き。
誰かがダーツでもやっているのだろうか。
ぼんやりとそんなことを考えながらも人間の性なのか、意識せずとも聴覚が未解読の情報求め、更に敏感になる。
段々と明確になる雑音に、首を傾げた。
『…から、逃げ…なって』
『逃げ…に…決まっ…ですかー…か王子…』
「…人?」
雅の耳は途切れ途切れながらも人の会話を察知する。
声質的に考えると男性二人だ。
しかし、何かが引っかかった。
その声はどう考えても自分と同じ高さから聞こえてくるものではない。
地面に足を着けていれば、声は真っ直ぐ届くはずだ。
雅は目を閉じてもう一度耳を澄ませるが、やはり、声は前方の木々達の上からこちらに届いているように感じる。
しかも心なしか大きくなっている気がするのだ。
そこまで考えて雅は自嘲の笑みを溢し、まさかと頭を振った。
それでは木を飛び移りながら会話をしていることになるではないか。
並の運動神経では無理だ。
「…疲れにやられたかな」
ふぅ、と息を吐いて両耳を引っ張る。
首を項垂れうつ向くと、ボンヤリと月明かりに照らされた自分の足元を見た。
その瞬間。
―ヒュ
「!」
一瞬、その足元を一つの影が通り過ぎる。
驚く間もなくもう一つ。
同時にすぐ頭上で木の軋む音と、ドッと何とも鈍い音が、した。
「ゲロ」
「ゲロ…?」
耳に届いた言葉を復唱しながらも、頭を横切る危険信号。
とてつもなく、此処から離れた方がいい気がした。
本能に従い身体中の筋肉総動員で動こうとするが、今日はとことん運が悪いらしい。
足を大きく踏み出した瞬間に感じた抵抗。
嫌な予感を胸一杯に抱え振り返れば、案の定、予想通りの光景が目に入った。
普段着慣れない為に、気が回らなかった。
もたれた時に挟まったのだろう。
スリップドレスの裾が、見事に木の小枝に捕われている。
外す時間など勿論なかった。
視界に入る自分の影にどんどん大きく被さる影を見て、雅の顔から血の気がひいていく。
次の展開が、読めた。
―ドカッ
―ゴッ
「あ」
「っんぐ…!」
予測を裏切ることなく、降ってきたモノの下敷きとなった雅は、後頭部と額の二つの衝撃に悶えた。
後頭部と同じく地面とご対面している背中やお尻も地味に痛い。
ゴーンと鐘の様に響く頭にクラクラしながら目をうっすらと開ける。
「…」
目だ。
何とも粒羅な目と、目が合ってしまった。
徐々にはっきりとしてくる輪郭に、雅は痛みも忘れて呟く。
「…かえる?」
青い瞳を持つ、黒い蛙が目の前でもぞりと動いた。
「すいませーん。生きてますー?」
蛙が、喋る。
否、少なくとも今の雅にはそうとしか見えなかった。
再びぐわんぐわんし始めた頭を抑え、ポカンと口を開く。
「…蛙が喋った」
「や、蛙じゃないんですけど。目とか頭とか色々大丈夫ですかー?」
「失礼な、その言い方だと私が変人みた…ん?」
どことなく垣間見えた失礼な台詞に思わず素で返しそうになるが、ふと視界をよぎるエメラルドグリーンの髪に目を奪われた。
蛙に、髪が生えている?
ピタリと止まる雅に、蛙が少し傾いた。
それをぼうっと目で追っていると、
「また変なこと考えてませんー?」
「わ!」
いきなり蛙が上にずれ、端正な顔が現れた。
冷静になった雅は今まで見れなかった全体像を把握する。
蛙の下に、顔。
顔の上に、蛙。
被り物だ。
何とも愛らしい蛙の中に、無表情な顔がハマっていた。
そのアンバランスすさがまた、可愛い。
じっと固まる雅を不思議に思っているのか、彼も彼女を見つめたまま動かなかった。
そんな二人に、頭上から声が掛る。
「しししっ、お前ら何楽しそうなことしてんだよ?」
その言葉に、雅は現状を思い出した。
蛙に気を取られて忘れていたが、現在自分は落下してきた彼の下敷きになっているのだ。
身体は向き合っている為、強いて言うなら押し倒されているような状態。
慌てて上半身を起こそうとするが、上の彼が障害となって起き上がれない。
顔の横も彼の両腕が塞いでいるので、ずれることも不可能。
八方塞がり状態に困り、どいて貰おうと口を開きかけるが先を越された。
「蹴り落としたのセンパイじゃないですかー。お陰でこの人頭おかしくなっちゃいましたけどー」
「いや、頭おかしくなってないんですけど」
「お前が逃げるからだろ。そいつは初めから頭イカレてそうだし、いんじゃね?」
「だから頭おかしくなってないんですけど。失礼にも程があるんですけど」
「ナイフ投げられたら誰だって逃げますよー堕王子。それはそうかもしれませんけど後々面倒じゃないですかー」
「…」
ここら辺の人間は人の話を聞くということを知らんのか。
いつかのデジャウに軽く眩暈を起こす。
この調子ではどうせ体勢も暫くこのままだろうと傍観を決め込んだ。
人間観察は嫌いではない。
無表情に上を見上げる蛙の彼の顔を再度見つめると、額が赤くなっているのを見つけた。
ジンジンする額を触り、納得する。
先程額に感じた衝撃は彼の額と堅さ比べをしたものだったらしい。
一つ解決したところで、次は頭上から聞こえる声の持ち主に視線を移した。
木の上でだるそうに座り込み、大腿を台に頬杖をついている。
ボリュームのある金髪で目元が隠れているが、残りのパーツから考えても端正な顔立ちであることは間違いなかった。
先輩と呼ばれているところから目の前の彼より上なのは確かだが、かなり生意気な後輩らしい。
淡白な喋りでことごとく言い返す彼に、青筋を浮かび上がらせている。
巻き込まれるのは御免だが、端から見物するのには中々楽しいやり取りだった。
しかし、暫く観察を進めるうちに奇妙な事に気が付く。
木の上を移動してくるところから奇妙このうえない二人だが、今回の雅の視点は彼等の服装がスーツであったことだ。
暗闇と衝撃と突っ込みで気付くのが遅れてしまった。
迂濶だったと自分を責める。
この時間にスーツで、しかも学園内の敷地にいる者なんて、限りなく限定される。
「…まさか」
本日二度目の嫌な予感に顔がひきつった。
慌てて記憶を引っ張り出すが、一番新しい、今日のメンバー大集合にも彼等の姿はない。
それならばと、記憶をもっと昔までたぐり寄せる。
勉強にはあまり活用されないが、ずば抜けた記憶力は雅の自慢だ。
ターゲットは、スパナと正一とやった、書類との睨めっこ時代。
レアメンバーの話を聞いて、しっかり目も通さず無造作に退けた資料。
その散らばった書類、視界の隅に入っただけのその一瞬までも、雅の頭はしっかりインプットしていた。
それらの中に、見つけた。
金髪の男と、蛙の被り物を被る少年。
名前は、ベルフェゴールとフランだ。
これで二人がレアメンバーである事と、明らかに今日ばっくれていたことを確定する。
自分の異常な長期記憶保存機能も再確認だ。
雅は多少自分の暗記力に恐ろしくなるが、何故これが勉強面で使いこなせないのだろうと自問自答を始めた。
結果は単純明解。
興味がないからである。
こちらは平和な学園生活を送る為に必要不可能だが、勉強にはそれを感じない。
スパナや正一が聞けば呆れるであろう答えを導きだした、その時だ。
ジャリ。
地面を踏む音を聞いたのは。
「…勘弁してよ」
音源の方を確認して、雅は今度こそ泣きたくなった。
そこには、唖然とした表情で立ち尽くす獄寺の姿。
そりゃこの体勢を見れば驚くだろう。
それにしても何故よりによって顔見知りの彼なのか。
雅と目が合うと、獄寺はズンズンと彼女達に向かって歩いていった。
フランとベルも彼の登場に気付いたらしく、言い争いを中断して、そちらを見る。
そんな注目の中、獄寺は雅とフランの真ん前まで来ると、いきなりフランの胸ぐらを掴み雅から引き離した。
鋭く睨みつけ、低い声で声を張り上げる。
「てめぇ、十代目の客になにしてやがる…!」
「不可抵力ですー落ちた先にこの人がいたんですってば」
両手を顔の前に無表情で言い切るフランの言葉に、納得出来るはずもなかった。
「落ちただと!?客に怪我させたらどうすんだよ!」
「そんなか弱そうには見えないですけど」
「………、そういう問題じゃねぇ。第一、てめぇらが今日参加せずにこんなところにいんのも問題なんだよ!」
おい。
無言による肯定を鋭く察知した雅は心の中で突っ込んだ。
どいつもこいつも失礼な。
ばれない程度に殺気を送り、その後少し考え込む。
初対面で、演じた自分を見せていないこの二人はともかく、注意を払っていた獄寺にまでそんなイメージを持たれているのだろうか。
演技には自信がある為に軽くショックを受ける雅だったが、実際のところはそんなものではなかった。
獄寺の中で、雅の態度にはどこか拭いきれない違和感がある。
彼が見る限りの彼女は控え目で大人しい、一般的な意見で現すならば、か弱い女性だ。
しかし、目の前の男は「か弱そうには見えない」と言った。
その瞬間例の笑顔がまたもや頭を占め、葛藤を生むこととなったのである。
恐らく今の自分の最大の悩みであろうその答えにどこか近いものを、当たり前のように話されて、いらついたのかもしれない。
そんな彼の心境など知りもしない雅は、二人のやり取りを傍観しながらどうしたもんかと頭を捻った。
獄寺はフランに気を取られ過ぎて上のベルには気付いていないらしく、彼もそれを承知のうえで頬杖をついたままじっと黙り込んでいる。
出来れば関わりたくないが、これ以上ややこしいことになるのは御免だ。
上半身を起こし、とりあえず獄寺からフランを解放しようと立ち上がった。
否、立ち上がろうと、した。
地面に手を着いた瞬間、耳元で声を聞く。
「ししっ、退屈凌ぎはっけーん」
何とも楽しそうな響きをもつその声を認識すると同時に、世界が反転した。
「はい?」
ふわりと身体が浮遊感に襲われ、気が付けば見えるのは地面。
俵担ぎをされているのだと理解するのに時間はかからなかった。
自分を担ぎ上げているのが、つい先程まで木の上にいたベルであることも。
いつの間に降りてきたのかとか、せめてもっと丁寧に扱えだとか、お腹が圧迫されて苦しいだとか、そんな事を考える暇もなかった。
「って、てめぇ何してやがる!降ろせ!」
此方の異変に気付いた獄寺がフランをほおり投げるように手放すと、ベルに掴み掛ろうとする。
しかしながら、空しくもその手は宙を掻いた。
「やなこった」
雅の視界から獄寺とフランの姿が、再来した浮遊感と共に遠ざかる。
「ちょ…!」
「な!?」
―トン。
驚く雅と獄寺をよそに、思い切り地面を蹴ったベルは軽い音をさせて太い木の枝に着地した。
下を見れば、獄寺の後ろに控えるフランがやはり表情も変えずに叫んだ。
「センパーイ、これ以上面倒事増やさないでくださーい」
「うっせ。オレちょっと遊んでくるから後よろしく」
「いつも思うんですけどー。人の気持ち考えたことありますー?」
「そんなの知るかよ。だってオレ、王子だもん」
意味分かんねーよ。
無言で激しく突っ込みを入れる雅と全く同意見らしい。
フランも深い深いため息をついた。
「毎度のことながら意味不明なんですけどー。大体その人連れて何処行く気ですかー?」
「ん?んー…」
いや、考えるなよ。
一応メンバーの一人だ。
相手が相手なだけに、突っ込みを口に出せないことが堪らなくじれったい。
それにここで自分が何か言っても彼の耳には入りさえしないだろう。
彼女は無駄な努力はしない主義だった。
もう成り行きに任せようと、雅は少しうつ向いて前髪で顔を隠す。
下で獄寺が叫ぶのが聞こえた。
「降りてきやがれ!」
「やだね」
「そいつを離せって言ってんだよ!」
「ししっ、返してほしけりゃ自分で取りに来いよ」
その言葉を最後にベルは着地面を蹴り上げ、前方の木へ飛び移る。
雅は腹部に伝わる振動に耐えるが、それが収まることはなかった。
そのまま前方へ前方へと前進していく。
「くそっ…!」
揺れ動く前髪の合間から、地面を走り此方を追いかける獄寺の姿が見えた。
同じく視界に入る金髪に恨めしそうな視線を送ると、ばれない程度に息を吐く。
今日は本当に厄日だ。
ふと空を見上げた彼女の目には、綺麗に笑う三日月が映っていた。
―後書き―
最近本当にスランプです。
主観と客観が見事にごちゃごちゃ(V)o¥o(V)
そして念願の二人、とても扱いにくい!
フランとかどこで伸ばし入れたらいいのか分かんない!
結局ほぼ語尾伸ばしちゃったけどこれは伸ばし過ぎな気が、します。
ベルには本当はお姫様抱っこさせたかったけど…どう考えてもベルにそれは望めない。
フランとのハプニングは本当は山本とのダンス練習中に使うはずだったものです(笑)
何度でも言うけどベタが好き\(゜ロ\)(/ロ゜)/
獄寺の心境表現、くどいですけどお付き合いください<(_ _)>
私の知識じゃどうしても表現が被るのです。
というか、フランと獄寺がまだ単行本で出会ってないから(ジャンプではどうなんでしょう?)互いの反応が分からないのが難点です。
では、ここまで読んで下さった方、有難うございました。
2
―私が何か悪いんですか?
「…はあ」
外の空気に触れ、熱った身体が冷えるのを待った。
適当な木に精神力を奪われ切った肢体を預け、ボンヤリと輪を纏う月を見上げる。
今夜は三日月だ。
何処となくその形が今の自分を嘲笑っているかのようで、雅は少し眉をしかめた。
あれから何とか骸とのダンスを終え、演技も貫き通した。
例え再び手の甲に接吻を喰らい、女生徒の嫉妬の視線を独り占めしようとも、だ。
しかし何を思ったのか、それらの視線を分かっていながら彼の自分に対する行動はヒートアップした。
『名残惜しいですね。貴方との時間は短すぎる』
切なげに瞳を細めて髪を撫でられれば、大抵の女性はその世界観に酔うだろう。
周りから聞こえる感嘆の溜め息と、うっとりとした表情に頭を抱えたくなる。
それでも見事に雅はその空気に一体化した。
瞳を揺らし、顔を真っ赤に染めあげる。
恥ずかしそうに視線を少しずらし、口を開きかけて一度閉じてから、言葉を発した。
「…、私も、夢のような時間でした」
わざと周りを煽りやがって。
こっちの身にもなりやがれ。
幸せそうに骸を見つめるその表情を見る限り、彼女のその心の声を聞き取れる者はそうそういないだろう。
鋭さを増した女生徒達―特に骸指名の女性の視線を一向に受けながらも、仮面をずらしもしなかった自分に拍手を送りたい。
そんな思いを抱いた雅の、次の行動は決まっていた。
これ以上やってられるかと、第2ラウンド開始の合図として照明が落ちたのをいいことに抜けてきたのである。
ツナと踊れないのは残念だが、仕方ない。
スパナを初めとした、練習に協力してくれた人々に申し訳なさを感じつつ、光が漏れた窓を見つめた。
第2ラウンドが始まったらしい。
「…風が気持ち良いなあ」
冷気を含んだ風がサアッと通り過ぎるのを、目を閉じて感じる。
しかし、その音に混じり、何か自然のものとは異質の音が雅の耳に届いた。
―ヒュンッ
―ドッ
「…?」
何かが空気を切り裂く音と、鋭利なモノが何処かに突き刺さる時独特の、鈍い響き。
誰かがダーツでもやっているのだろうか。
ぼんやりとそんなことを考えながらも人間の性なのか、意識せずとも聴覚が未解読の情報求め、更に敏感になる。
段々と明確になる雑音に、首を傾げた。
『…から、逃げ…なって』
『逃げ…に…決まっ…ですかー…か王子…』
「…人?」
雅の耳は途切れ途切れながらも人の会話を察知する。
声質的に考えると男性二人だ。
しかし、何かが引っかかった。
その声はどう考えても自分と同じ高さから聞こえてくるものではない。
地面に足を着けていれば、声は真っ直ぐ届くはずだ。
雅は目を閉じてもう一度耳を澄ませるが、やはり、声は前方の木々達の上からこちらに届いているように感じる。
しかも心なしか大きくなっている気がするのだ。
そこまで考えて雅は自嘲の笑みを溢し、まさかと頭を振った。
それでは木を飛び移りながら会話をしていることになるではないか。
並の運動神経では無理だ。
「…疲れにやられたかな」
ふぅ、と息を吐いて両耳を引っ張る。
首を項垂れうつ向くと、ボンヤリと月明かりに照らされた自分の足元を見た。
その瞬間。
―ヒュ
「!」
一瞬、その足元を一つの影が通り過ぎる。
驚く間もなくもう一つ。
同時にすぐ頭上で木の軋む音と、ドッと何とも鈍い音が、した。
「ゲロ」
「ゲロ…?」
耳に届いた言葉を復唱しながらも、頭を横切る危険信号。
とてつもなく、此処から離れた方がいい気がした。
本能に従い身体中の筋肉総動員で動こうとするが、今日はとことん運が悪いらしい。
足を大きく踏み出した瞬間に感じた抵抗。
嫌な予感を胸一杯に抱え振り返れば、案の定、予想通りの光景が目に入った。
普段着慣れない為に、気が回らなかった。
もたれた時に挟まったのだろう。
スリップドレスの裾が、見事に木の小枝に捕われている。
外す時間など勿論なかった。
視界に入る自分の影にどんどん大きく被さる影を見て、雅の顔から血の気がひいていく。
次の展開が、読めた。
―ドカッ
―ゴッ
「あ」
「っんぐ…!」
予測を裏切ることなく、降ってきたモノの下敷きとなった雅は、後頭部と額の二つの衝撃に悶えた。
後頭部と同じく地面とご対面している背中やお尻も地味に痛い。
ゴーンと鐘の様に響く頭にクラクラしながら目をうっすらと開ける。
「…」
目だ。
何とも粒羅な目と、目が合ってしまった。
徐々にはっきりとしてくる輪郭に、雅は痛みも忘れて呟く。
「…かえる?」
青い瞳を持つ、黒い蛙が目の前でもぞりと動いた。
「すいませーん。生きてますー?」
蛙が、喋る。
否、少なくとも今の雅にはそうとしか見えなかった。
再びぐわんぐわんし始めた頭を抑え、ポカンと口を開く。
「…蛙が喋った」
「や、蛙じゃないんですけど。目とか頭とか色々大丈夫ですかー?」
「失礼な、その言い方だと私が変人みた…ん?」
どことなく垣間見えた失礼な台詞に思わず素で返しそうになるが、ふと視界をよぎるエメラルドグリーンの髪に目を奪われた。
蛙に、髪が生えている?
ピタリと止まる雅に、蛙が少し傾いた。
それをぼうっと目で追っていると、
「また変なこと考えてませんー?」
「わ!」
いきなり蛙が上にずれ、端正な顔が現れた。
冷静になった雅は今まで見れなかった全体像を把握する。
蛙の下に、顔。
顔の上に、蛙。
被り物だ。
何とも愛らしい蛙の中に、無表情な顔がハマっていた。
そのアンバランスすさがまた、可愛い。
じっと固まる雅を不思議に思っているのか、彼も彼女を見つめたまま動かなかった。
そんな二人に、頭上から声が掛る。
「しししっ、お前ら何楽しそうなことしてんだよ?」
その言葉に、雅は現状を思い出した。
蛙に気を取られて忘れていたが、現在自分は落下してきた彼の下敷きになっているのだ。
身体は向き合っている為、強いて言うなら押し倒されているような状態。
慌てて上半身を起こそうとするが、上の彼が障害となって起き上がれない。
顔の横も彼の両腕が塞いでいるので、ずれることも不可能。
八方塞がり状態に困り、どいて貰おうと口を開きかけるが先を越された。
「蹴り落としたのセンパイじゃないですかー。お陰でこの人頭おかしくなっちゃいましたけどー」
「いや、頭おかしくなってないんですけど」
「お前が逃げるからだろ。そいつは初めから頭イカレてそうだし、いんじゃね?」
「だから頭おかしくなってないんですけど。失礼にも程があるんですけど」
「ナイフ投げられたら誰だって逃げますよー堕王子。それはそうかもしれませんけど後々面倒じゃないですかー」
「…」
ここら辺の人間は人の話を聞くということを知らんのか。
いつかのデジャウに軽く眩暈を起こす。
この調子ではどうせ体勢も暫くこのままだろうと傍観を決め込んだ。
人間観察は嫌いではない。
無表情に上を見上げる蛙の彼の顔を再度見つめると、額が赤くなっているのを見つけた。
ジンジンする額を触り、納得する。
先程額に感じた衝撃は彼の額と堅さ比べをしたものだったらしい。
一つ解決したところで、次は頭上から聞こえる声の持ち主に視線を移した。
木の上でだるそうに座り込み、大腿を台に頬杖をついている。
ボリュームのある金髪で目元が隠れているが、残りのパーツから考えても端正な顔立ちであることは間違いなかった。
先輩と呼ばれているところから目の前の彼より上なのは確かだが、かなり生意気な後輩らしい。
淡白な喋りでことごとく言い返す彼に、青筋を浮かび上がらせている。
巻き込まれるのは御免だが、端から見物するのには中々楽しいやり取りだった。
しかし、暫く観察を進めるうちに奇妙な事に気が付く。
木の上を移動してくるところから奇妙このうえない二人だが、今回の雅の視点は彼等の服装がスーツであったことだ。
暗闇と衝撃と突っ込みで気付くのが遅れてしまった。
迂濶だったと自分を責める。
この時間にスーツで、しかも学園内の敷地にいる者なんて、限りなく限定される。
「…まさか」
本日二度目の嫌な予感に顔がひきつった。
慌てて記憶を引っ張り出すが、一番新しい、今日のメンバー大集合にも彼等の姿はない。
それならばと、記憶をもっと昔までたぐり寄せる。
勉強にはあまり活用されないが、ずば抜けた記憶力は雅の自慢だ。
ターゲットは、スパナと正一とやった、書類との睨めっこ時代。
レアメンバーの話を聞いて、しっかり目も通さず無造作に退けた資料。
その散らばった書類、視界の隅に入っただけのその一瞬までも、雅の頭はしっかりインプットしていた。
それらの中に、見つけた。
金髪の男と、蛙の被り物を被る少年。
名前は、ベルフェゴールとフランだ。
これで二人がレアメンバーである事と、明らかに今日ばっくれていたことを確定する。
自分の異常な長期記憶保存機能も再確認だ。
雅は多少自分の暗記力に恐ろしくなるが、何故これが勉強面で使いこなせないのだろうと自問自答を始めた。
結果は単純明解。
興味がないからである。
こちらは平和な学園生活を送る為に必要不可能だが、勉強にはそれを感じない。
スパナや正一が聞けば呆れるであろう答えを導きだした、その時だ。
ジャリ。
地面を踏む音を聞いたのは。
「…勘弁してよ」
音源の方を確認して、雅は今度こそ泣きたくなった。
そこには、唖然とした表情で立ち尽くす獄寺の姿。
そりゃこの体勢を見れば驚くだろう。
それにしても何故よりによって顔見知りの彼なのか。
雅と目が合うと、獄寺はズンズンと彼女達に向かって歩いていった。
フランとベルも彼の登場に気付いたらしく、言い争いを中断して、そちらを見る。
そんな注目の中、獄寺は雅とフランの真ん前まで来ると、いきなりフランの胸ぐらを掴み雅から引き離した。
鋭く睨みつけ、低い声で声を張り上げる。
「てめぇ、十代目の客になにしてやがる…!」
「不可抵力ですー落ちた先にこの人がいたんですってば」
両手を顔の前に無表情で言い切るフランの言葉に、納得出来るはずもなかった。
「落ちただと!?客に怪我させたらどうすんだよ!」
「そんなか弱そうには見えないですけど」
「………、そういう問題じゃねぇ。第一、てめぇらが今日参加せずにこんなところにいんのも問題なんだよ!」
おい。
無言による肯定を鋭く察知した雅は心の中で突っ込んだ。
どいつもこいつも失礼な。
ばれない程度に殺気を送り、その後少し考え込む。
初対面で、演じた自分を見せていないこの二人はともかく、注意を払っていた獄寺にまでそんなイメージを持たれているのだろうか。
演技には自信がある為に軽くショックを受ける雅だったが、実際のところはそんなものではなかった。
獄寺の中で、雅の態度にはどこか拭いきれない違和感がある。
彼が見る限りの彼女は控え目で大人しい、一般的な意見で現すならば、か弱い女性だ。
しかし、目の前の男は「か弱そうには見えない」と言った。
その瞬間例の笑顔がまたもや頭を占め、葛藤を生むこととなったのである。
恐らく今の自分の最大の悩みであろうその答えにどこか近いものを、当たり前のように話されて、いらついたのかもしれない。
そんな彼の心境など知りもしない雅は、二人のやり取りを傍観しながらどうしたもんかと頭を捻った。
獄寺はフランに気を取られ過ぎて上のベルには気付いていないらしく、彼もそれを承知のうえで頬杖をついたままじっと黙り込んでいる。
出来れば関わりたくないが、これ以上ややこしいことになるのは御免だ。
上半身を起こし、とりあえず獄寺からフランを解放しようと立ち上がった。
否、立ち上がろうと、した。
地面に手を着いた瞬間、耳元で声を聞く。
「ししっ、退屈凌ぎはっけーん」
何とも楽しそうな響きをもつその声を認識すると同時に、世界が反転した。
「はい?」
ふわりと身体が浮遊感に襲われ、気が付けば見えるのは地面。
俵担ぎをされているのだと理解するのに時間はかからなかった。
自分を担ぎ上げているのが、つい先程まで木の上にいたベルであることも。
いつの間に降りてきたのかとか、せめてもっと丁寧に扱えだとか、お腹が圧迫されて苦しいだとか、そんな事を考える暇もなかった。
「って、てめぇ何してやがる!降ろせ!」
此方の異変に気付いた獄寺がフランをほおり投げるように手放すと、ベルに掴み掛ろうとする。
しかしながら、空しくもその手は宙を掻いた。
「やなこった」
雅の視界から獄寺とフランの姿が、再来した浮遊感と共に遠ざかる。
「ちょ…!」
「な!?」
―トン。
驚く雅と獄寺をよそに、思い切り地面を蹴ったベルは軽い音をさせて太い木の枝に着地した。
下を見れば、獄寺の後ろに控えるフランがやはり表情も変えずに叫んだ。
「センパーイ、これ以上面倒事増やさないでくださーい」
「うっせ。オレちょっと遊んでくるから後よろしく」
「いつも思うんですけどー。人の気持ち考えたことありますー?」
「そんなの知るかよ。だってオレ、王子だもん」
意味分かんねーよ。
無言で激しく突っ込みを入れる雅と全く同意見らしい。
フランも深い深いため息をついた。
「毎度のことながら意味不明なんですけどー。大体その人連れて何処行く気ですかー?」
「ん?んー…」
いや、考えるなよ。
一応メンバーの一人だ。
相手が相手なだけに、突っ込みを口に出せないことが堪らなくじれったい。
それにここで自分が何か言っても彼の耳には入りさえしないだろう。
彼女は無駄な努力はしない主義だった。
もう成り行きに任せようと、雅は少しうつ向いて前髪で顔を隠す。
下で獄寺が叫ぶのが聞こえた。
「降りてきやがれ!」
「やだね」
「そいつを離せって言ってんだよ!」
「ししっ、返してほしけりゃ自分で取りに来いよ」
その言葉を最後にベルは着地面を蹴り上げ、前方の木へ飛び移る。
雅は腹部に伝わる振動に耐えるが、それが収まることはなかった。
そのまま前方へ前方へと前進していく。
「くそっ…!」
揺れ動く前髪の合間から、地面を走り此方を追いかける獄寺の姿が見えた。
同じく視界に入る金髪に恨めしそうな視線を送ると、ばれない程度に息を吐く。
今日は本当に厄日だ。
ふと空を見上げた彼女の目には、綺麗に笑う三日月が映っていた。
―後書き―
最近本当にスランプです。
主観と客観が見事にごちゃごちゃ(V)o¥o(V)
そして念願の二人、とても扱いにくい!
フランとかどこで伸ばし入れたらいいのか分かんない!
結局ほぼ語尾伸ばしちゃったけどこれは伸ばし過ぎな気が、します。
ベルには本当はお姫様抱っこさせたかったけど…どう考えてもベルにそれは望めない。
フランとのハプニングは本当は山本とのダンス練習中に使うはずだったものです(笑)
何度でも言うけどベタが好き\(゜ロ\)(/ロ゜)/
獄寺の心境表現、くどいですけどお付き合いください<(_ _)>
私の知識じゃどうしても表現が被るのです。
というか、フランと獄寺がまだ単行本で出会ってないから(ジャンプではどうなんでしょう?)互いの反応が分からないのが難点です。
では、ここまで読んで下さった方、有難うございました。
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